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友情と恋情の狭間で
ツキアカリの真実

(いったい何処に行くんだろ?)

俺は、知泉の後を追って外まで来ていた。
夏の夜はあまり風もなくジメッとしている。
昼の騒がしさが嘘のように静まり返り、あたりは山に囲まれているため夜光虫の羽音が聞こえてきた。

外は暗い。
俺は知泉を見失わないように、気づかれない距離を保ちながら後を追いかけた。

そして、気づけば施設内にある湖まで来ていた。
月明かりに水面は神秘的に煌き、綺麗に満月を映し出している。

知泉は湖畔に腰を下ろし、両足を湖に浸している。


微かに響く水の反響音―――。
月光に輝く湖をバックに佇み知泉の後姿――――。
夜光虫の羽の羽ばたき――――。

知泉のいる空間だけ…別世界に見えた。
一枚の絵になるのではないかと思えるほど、神秘的で美しかった。


知泉が足を動かすたびに…響く水音。
俺は、意を決して声をかけようと一歩を踏み出した時だった。

「………那智」


――――俺?
その一歩は踏み止まってしまう。

いつも聞く知泉の声と少し違う…どう表現すればいいのだろう。
この声音は…どこかで聞いたことがある。


「…那智」

何度も俺の名を呼ぶ知泉。

そして…俺は自分の耳を疑った。

「…好き」

…………………。
今、好きって言った?

俺の脳内では、さっきの言葉が何度も行き来している。
“好き”って…友情の好き?それとも………………。


顔を下に向けていた知泉の顔が、ゆっくりと空へと向けられた。
そのとき、知泉の頬には一筋の涙が流れているのが、離れていても分かる。

(……泣いてる?)

知泉は泣いていた。
泣きながら俺の名を呼び、“好き”の2文字を口にしたのだ。
友情からの“好き”だと受け取ることは出来ない。
知泉の“好き”は…恋情の好き…………。


長年、一緒にいたのだ…。
今までの知泉の行動からも窺える。
あまり深く考えなかったのは、知泉と俺は普通の幼馴染として過ごしてきたから。
一緒に馬鹿なことをして笑って、意見が食い違えば喧嘩をして――…。
それでも、次の日になる前にはお互いに謝って、仲直りをした。

―――何でも話せる親友。
…俺は、そう思っていた。


しかし…気づいてしまった。
知泉が今まで、何に悩んでいたのか。
聞いても「別にないよ」と答えていた訳を。


…どうすればいい?

俺は知ってしまった。
知泉の想いを…。

でも、今の俺にはどうすればいいのか分からなかった。
気づいていて、知らないふりをするか?
それとも、知泉に直接聞くか?

パンクしそうな頭で、俺はただ1つだけ確信できるものがあった。

それは……聞いてしまえば俺たちの関係は、一瞬で崩れてしまうこと。
今まで大切な幼馴染として過ごしてきた日々が消えてしまうこと。

それだけは…失いたくなかった。
どんなものを失うより、俺は知泉との今までの関係を壊したくなかった。

だから、俺は知らないふりをしなければいけない。
今の関係を失わないようにするために………。



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あきゅろす。
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