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友情と恋情の狭間で
追いかける背中

風呂から上がり、部屋へ戻ると知泉の姿があった。
中学規定の体操服に着替え、髪は濡れている。

俺が帰ってきたことに気づき、知泉の嬉しそうな顔が向けられる。

「おかえり」
「…あぁ、ただいま。ちゃんと先生のところへ行ったのか?」
「…行った、よ」

視線を逸らしながら、知泉は俺と距離を置く。

行ってないな…。

俺は深く溜息をつき、知泉の頭に手を置いた。
ビクッと身体を強張らせ、知泉はゆっくりと顔を上げ俺と目が合う。

「…行ってないな、知泉。……行けって言ったのに」
「…だって、熱ないのに先生のところに、行けるわけないだろ?少し、お腹が痛かっただけだよ」

頬を膨らまし、綺麗な顔が一瞬で幼い子どもの顔へと変わる。

「…お腹痛かったのか?もう…大丈夫なのか?」
「うん………それは大丈夫。だからお風呂にも入ったんだよ」

部屋に備え付けられた浴室を使ったらしい。
換気扇の音が、微かに聞こえる。

「…山本たちは?」

「…あいつ等なら、今は自由時間だから…女子のところにでもいるんじゃないの?」

「…好きだね…」

「まぁ〜一応、健全な男子だからな。山本のお目当ての子のところにいるんだろ」

鼻で笑いながら、俺は知泉の横へと腰を下ろす。

「………那智は」
「ん?」
「…好きな子いるの?」

消えそうな声の知泉。
俺は、あまり深く考えずに答えた。

「…今は、いないな…」
「…そっか」

あの時の俺は、このときの少しだけ知泉の声色が嬉しそうだった理由を知らない。

真実を知るのは…綺麗な満月の夜―――。
山本たちが帰ってきて、恋愛話になった真夜中。

みんなが寝付き、静まり返った部屋に扉が閉まる音が響き渡った。
俺は気になり、ベッドを見渡すと知泉の姿がなかった。

なぜだろう…。
どうして…あの時の俺は、知泉の後を追いかけてしまったのか。

追いかけなければ…少しだけ、知泉の思いを知る時間は遅くなったかもしれないのに…。







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あきゅろす。
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