友情と恋情の狭間で
夏の幻
中学一年の夏――――。
学校行事で、一泊二日の合宿があった。
特に変わったことはなく、グループに分かれて夕食の準備をしたり、夜はキャンプファイヤーと肝試しといったありふれたイベントだった。
グループメンバーはくじで決まり、男女三人ずつの六人グループ。
俺と知泉は同じグループになった。
合宿当日――――。
無事に一日を終え、後は入浴と寝るだけとなった。
「知泉―。風呂行こう」
各クラス、入浴時間が決められている。
やっと俺たちの組の番になり、同じ部屋の奴らとトランプをしていたが一時止め、ベッドの上でじっと俺たちのトランプを見ていた知泉に声をかけた。
「………」
「…知泉?」
ボーっとしているのか、俺の声が聞こえていないようだった。
「知泉。おーい、知泉ーーー?」
「……っうえ!?…那智」
「何、ボケッとしてんだよ。やっと風呂の順番が回ってきたんだ。入りに行こう」
知泉の手を取ろうと、目の前に差し出す。
いつもなら嬉しそうに微笑み俺の手を掴み返すのに、今回は少し躊躇っているように見える。
「どうかしたのか?」
「…ごめん。ちょっと調子が悪いみたいだからさ。みんなで入ってきて」
「調子が悪いって!大丈夫なのか?先生呼ぶ?」
俺は知泉の額に手を当て、熱がないか確かめる。
その動作に、知泉の身体が小さく跳ねたのを見逃さなかった。
「……ちょっと熱いな?……顔も赤いし。俺が先生呼んでこようか?」
「いいよ!!!……俺が、自分で行くから。那智は、お風呂に入っておいでよ。時間なくなるよ」
知泉は立ち上がり、俺の背中をぐいぐい押すものだから…。
俺は心配だったが、知泉の言葉を信じて風呂場へと向かう。
「ちゃんと先生のところ行けよ!」
「もぅ…分かってるよ。那智は心配性なんだから」
呆れ顔で知泉は、部屋の扉の前に立っていた。
俺は、何度も振り返りながら「行けよ」と叫んだ。
その度に知泉も、「はいはい」と答えていたけど。
俺が通路を曲がり、知泉から姿を消したとき「……その優しさが、残酷だよ」と知泉が囁いたなんて俺は知らなかった。
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