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バカ、意識しすぎ(跡部景吾)










「遅い。遅刻だ。走れ。」


駅前、一人の少年が携帯に向かってそう言い放ち、すぐに携帯をポケットに入れていた。



















『ちょ、待っ……、もう!』


改札口、一人の少女が息を切らせながら携帯に向かって叫び、携帯をカバンにしまっていた。




















「なんで遅れた。」

『ふ、服!選べなくて……っ、はぁ、はぁっ、』


仁王立ちするのは跡部景吾。

セットしてきたであろう髪をぐしゃぐしゃにして、仁王立ちする跡部を見やるのは秋風友伽里。


「ったく。それで選んできたのか?安っぽいな。」


友伽里を見下し、跡部は鼻で笑った。


『なっ!……もういいでしょ!早く行くわよ!』

「俺様より先を歩くな!」

ぷいっと顔を背け、友伽里はつかつかと歩いて行った。

跡部はそれを追い掛ける。


『もー、なんなのよ。』

「……るせぇな。」


映画館でチケットを買うために、友伽里が列に並ぼうとしていると、跡部が札束を渡してきた。


『こんなにいらないわよ。』

「……そうなのか。」


跡部は普段、家のシアタールームでしか映画を観ないというので、友伽里が映画をデートにチョイスした。


『ふふっ、何にも知らないんだから。』

「お前だって社交界のマナーなんかわかんねぇだろうが。」

『わからなくても生きていけます。』

「あーん?」


二人は馬鹿な話を進めながら、無事にチケットを購入し、映画館へと入った。


「なんだここ。本当に劇場か?」

『何よ、十分広いじゃない。』


適当な場所を選んで、二人は腰をおろした。


「椅子、か?硬いな。」

『……普通よ。』


友伽里は、頼むからそれ以上話さないでくれ、と跡部に言い残してポップコーンを買いに行くために席を立った。


「気を付けろよ。」

『大丈夫よ、馬鹿。』


友伽里がポップコーンを買っている間に、跡部は座席をギシギシと揺らしていた。


「何だよ、マジで尻が痛ぇな。」


これで映画なんか観る事が出来るのか、と思ったが、友伽里の笑う顔が浮かんだ跡部は、黙ってスクリーンの方を見た。

跡部がふと斜めの座席を見ると、カップルがキスをしたり抱き合ったりしていた。


「なっ……!」


跡部はカップルを見て顔を真っ赤にし、極力見ないように下を向いたが、はっと気が付いたように友伽里が座っていた席を見た。


「……。」


そして跡部は何も言わずに席を立ち、1つ隣の座席に座った。


『あれ、景吾?なんで席の間1つ空けるのよ。』


ポップコーンを片手に戻ってきた友伽里を、ちらりと横目で見て、跡部は呟いた。


「……今信頼を失う訳にはいかねぇ。」

『は?』

「座席が近い。」

『え?』


耳まで真っ赤な跡部を見た友伽里は、ふと斜めの座席を見て納得した。

そして微かに笑い、席を移動して跡部の隣に移動した。


「だから、お前な……、」

『景吾。』

「……んだよ。」


二人の影が重なった。


『今度社交界マナー教えてね。』


将来のために、と友伽里が跡部に耳打ちすると、跡部は優しく笑い、友伽里の肩を引き寄せた。









バカ、意識しすぎ
(そんな貴方が大好き。)


2010/12/05


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