先生、
先生、強引です。
待ちに待った日曜日。
いや、本当は来てほしくなかったかも。
だって目の前の光景が煌びやか過ぎるから。
「歩美〜!こっちこっち〜!」
『あ、……うん。』
手をブンブンと振り回しているのか、手招きをして私を呼んでいるのか定かではないが、とにかく親友の百合と真田先生、そして愛しの幸村先生が居た。
「遅いよっ!何してたの!」
『ちょっと、服とか…。』
もう服とかどうでも良かったかもしれない。
只でさえ格好良すぎて目がチカチカする男前二人と、学校で美少女と名高い百合が並んでいるのに…。
私なんかが少しお洒落したって意味をなさないもの。
「なーによ、暗い顔しちゃって。アンタはもう少し金持ちらしく気取りなさいよ。」
『だってぇ…。』
泣きたい。
金持ちだからって百合みたいな美貌があるとは限らないんだから。
「じゃ、また後で合流ね〜。幸村先生、歩美をよろしくね?」
百合の気遣いはとっても嬉しいわよ?
「うん。百合ちゃんもね。」
だからって私なんかが先生の隣を歩いていいものかしら。
「百合の事は任せろ。」
あー…、そっか。真田先生と百合は二人で回るのか〜。
「クスッ、真田は変な気を起しかねないからね。」
うんうん。百合相手だと女の私だって変な気を起こしちゃうよ。
「どういう意味だ。」
「あ〜!真田先生!行きましょう!じゃーねっ!」
ムッとした真田先生を余所に、百合は先生の腕を引っ張ってバタバタとどこかへ歩いて行ってしまった。
『………え?』
バカみたいに手を振りながらその光景を見ていた私。
だから気付かなかった。
先生と二人きりになっているなんて。
「あはは、歩美ちゃんは天然だなぁ。」
『なっ、なななっ!』
先生は意地悪です。
私があたふたとしている所を見て笑うなんて。
でも、普段は最低だと思う男性の仕草も、幸村先生だと何でも許してしまうのは、私が勝手だからかな?
『もうっ…。』
「あはは、ごめんごめん。さ、行こうか?」
私は先生が差し出してきた手を握った。
恥ずかしくて、くすぐったい。
勿論、私はエスカレーター式の女子校に通っていただけあり、男性の手なんか触れたことも無かった。
知っていましたか?
初めての温もりは先生だったんですよ?
『先生、どこにいきますか?』
「ストップ。」
私が先生を見上げると、私の唇に先生が人差し指を押しあてた。
『な、なっ!?』
「校外で“先生”は禁止。わかった?」
私は顔を真っ赤にさせて、こくこくと頷いた。
距離が近いですっ!
『じゃ、じゃあ何て呼べば…、』
私は半ばパニック状態で話を逸らした。
私の質問に、先生は一瞬考えたような顔をしたが、すぐに笑って答えてくれた。
「幸村くん、とか。」
『えぇ!』
過剰に反応してしまった事に後悔した。
周りの視線が痛い。
街中だと言う事を忘れていた。
「何、いや?」
『そういう訳じゃ…、』
「じゃあ、決定。」
仮にも歳上の先生を君付けで呼ぶのは気が引けましたが、先生が楽しそうだったので承諾しました。
きっと先生は恋人には強引だと思う。
外面は紳士でも根は強引。
また新しい先生を見付ける事ができた。
『先生、どこにいきますか?』
「お望みなら、どこへでも。」
今日だけ私の“幸村くん”。
握った手と手が暖かかった。
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