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飴玉注意報
ずっと二人で








『ブ、ブン太!』

「んだよ、まだ何か買うのか?」


今日は明菜連れて街に来た。

人が多くて苛々するが、こんな日は手が繋げる。

普段は恥ずかしいって断られるけどな。

それに、今日は俺が君に本当の気持ちを伝えてから1年になるんだ。


『ト、トイレ!』

「はぁぁ!?走るぞ!」

『ちょ、ま、無理!』

「っ、乗れ!」










ジャー、










『お待たせ!』

「おう。」


てな感じで俺達の日常は退屈しない。

寧ろ、明菜が病気だなんて端から見たって分からないだろう。


『あー、もうお昼だー。』

「うしっ、帰るか。」

『……うん。』


明菜は飯を食う時に必ず注射をする。

自分で採血をして、血糖値を確かめる。

指先だったり、腕だったり、時には腹だってこともある。

家に着いて、明菜は指先に鋭い針を刺していた。

小さな赤い膨らみが明菜の指先に出来た。


「大丈夫か?」

『うん、大丈夫。でも少し低いかな。買い物で楽しみすぎちゃった。』


困ったように苦笑いする明菜を、俺は何度も見てきた。

最近は少なくなった方だけど、やはり明菜は何処か遠慮している。


「飴、舐めとけ。」

『はーい。』


俺が鞄から出した飴を口に含み、明菜は笑った。


「……そういえばさ、」

『んー?』


俺はソファーに座る明菜の横に腰を下ろした。


「俺達、飴から始まったな。」

『は?』


明菜は、なにが?とでも言いたそうな顔をして俺を覗き込んでいた。


「明菜が俺に飴くれたじゃん?アレ。」

『ああ、そうだったね……。』


君があの日のあの時に、俺に飴を差し出していなかったら、俺達は出会っていても愛し合ってはいなかっただろう。

今だって、お互いを知らない世界で生きていたかもしれない。


「見知らぬ男女が恋に落ちたってわけか?」

『ふふ、私は知ってたけどね。丸井ブン太、立海大3年のナルシスト。』

「ったく、」


俺は明菜の頭をがしがしと撫でた。


「ま、でもそのおかげで俺達は続いてるんだよな。」

『感謝しなさいよっ、明菜様に!』

「調子良いなお前……。」


俺は苦笑いしながら、くすくす笑う明菜の手を握った。


『ブン太?』

「俺、お前が好きだ。」


二人で過ごす空間には広すぎるリビングには、俺の声と外から聞こえる風の音だけが響いた。


『……それは、特別な好きだよね。』

「あの時からずっと変わってねぇよ。」


明菜は目を細めて俺を見た。


『ほーんーとー?』

「ぷっ、本当じゃなかったら何だよ。別れるか?」

『いや!駄目!ブン太は私の!』


明菜が余りにも真面目に俺を見てきたので、思わず笑ってしまった。


「あー、はいはい。」

『もーっ。』


俺は拗ねた明菜を、ぎゅっと後ろから抱き締めた。


『ブン太?』

「少し、このまま、な。」


俺達には色々と障害物が多かった。

そりゃ、俺達とは比べ物にならねぇ程、苦労している奴だっているだろう。

でも、本当に苦しかった。

何度も何度も諦めかけた。

だけど、何度も君からの飴玉に助けられたんだ。

明菜との恋は甘すぎたけれど、

障害物という名の苦さもあって、

嫉妬という酸っぱさもあった。

色んな味が混じっていて正直怖かったんだ。


「明菜……、」

『ブン太、』

「……え?」


明日は何味なんだ。

何が俺を傷つけるんだ。

でも実際は、そんな心配はいらなかったんだよな。


『ブン太、大好き!』


だってそれは1人だったから。

だけど、今は君が一緒に傍にいてくれるから、もう怖くない。

だから、明日を迎えられる。

なぁ、明菜。

明日の天気は何だろう?


「俺も……、大好きだ。」







それはきっと、甘い甘い恋模様。









fin...







2010/05/01
今までありがとうございました!


あきゅろす。
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