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飴玉注意報
本当の気持ち









「っ、やべぇ…。」


何度俺は、この病室の扉の前で手に汗を握ったんだろう。

会えると思うと嬉しくて、

拒絶されると思うと怖くて、


「落ち着けー、落ち着け!俺は大丈夫だ!」


何度も大丈夫と自分に言い聞かせた。

深呼吸をしていると、不意に明菜の名前が目に入った。


「そういや、このネームプレート見てっと、明菜が病室からいきなり出て来たんだっけな。」


懐かしくなり、そっと触れた。


「よし…っ!」


ぎゅっと拳を握り、勇気を出して扉に手を掛けた時、


『っく、嫌だよぉ…!』

「…明菜、もう泣かないで下さい。」


柳生と明菜の話し声が聞こえてきた。

なんだ?

俺はぴたりと手を止め、二人の会話を聞き取ろうと扉に耳をくっ付けた。


『私、もう嫌だ!どうしてよ!』

「明菜、落ち着いて下さい!もう少しで丸井君が来ますから…!」


一瞬どきりとした。

いきなり俺の名前が出た。


『ブン太君だって…、違う。ブン太君に迷惑なんか掛けられない!』

「丸井君はそんな人ではありません。明菜が一番わかっているでしょう!?」

『わかってるよ!…でも、』


これ、ヤバいんじゃないの?

おそらく明菜は興奮して、それを柳生が抑えている。っていうところか?

俺は不安になりつつも、明菜の言葉が気になり耳を傾けた。


「明菜、貴女は自分を犠牲にしすぎです。」


柳生の弱々しい声が微かに聞こえた。

そういや、仁王が言ってたな。

“女は自分を犠牲にするんじゃ。”

“明菜ちゃんの気持ち、わからんでもないぜよ?”

“ブンはお子様じゃけぇの。”

……、最後のは関係無いだろぃ。


「何が駄目なんですか。病気だからですか?」

『……ブン太君まで、私の病気の辛さを知ってもらわなくてもいいの。私の知らないところで幸せになってくれれば…、』


ガラッ


『え……?』


俺は明菜の病室の扉を無意識に開けていた。


「あ、いきなり、ごめん!」


自分でも、なぜ今のタイミングで扉を開けたのかわからないが、手が勝手に動いていた。


『ブン太君…、』

「ひ、久しぶり!」


あー、俺らしくねぇ。

緊張して上手く舌が回らない。


『あの、』

「俺、勉強したんだ!」

『え……?』


明菜が気まずそうに口を開いたが、俺は明菜の言葉を消すように上から言葉を被せて話し出した。


君に伝えたい。


俺の本当の気持ち。


上手く伝わるか?


わからない。


でも、


信じて。


俺の、


俺の言葉を。


俺は、ゆっくりと深呼吸をして目を閉じた。

俺の全部で君に伝えるから。

明菜を見ると、今にも壊れそうな顔をしていた。













あきゅろす。
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