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飴玉注意報
崖っぷち











“会いたくない”


君の声は俺の中で、

日に日に大きくなっていった。












「ブン、泣きなさんな。」

「るせぇな…!」


俺は明菜が居る病院を出た後に、仁王と公園に来た。

正確に言えば、俺が公園で時間を潰していると、仁王がやって来たのだが。


「そうやって、また目を背けるんか?」


俺が座るベンチの前にある鉄棒に寄り掛かる仁王。

さわさわと風が仁王の銀髪をなびかせていた。


「……お前には関係ないだろぃ?」


怒る気さえ、今の俺には無い。

明菜の一言に相当なダメージを与えられたみてぇだ。


「柳生の気持ちはどうなるんじゃ?」

「ああ、…そうだな。」


わかってる。

普段、冷静なアイツがあんなに取り乱すなんて考えられない。

それほどにも、悩んでいた証拠だろう。

俺が明菜を見捨てるのでは無いかと。


「俺、自信ねぇんだ。」

「は?」


仁王が拍子抜けしたように、目を丸くした。


「ぷっ…、んなに驚く事か?」

「い、いや、何でもなか。……で?何で自信が無いんじゃ?」


俺は仁王の顔が可笑しくて、吹き出した。

そんな俺を見て、仁王は恥ずかしいのか手の甲で自分の口元を押さえていた。


「……病気ってさ、怖いじゃん。」

「ああ、」

「いつ何が起こるかわからねぇ。」


俺は目を閉じて深呼吸をした。


「得体の知れない不安に負けそうになる事だってある。」

「それは…っ、」


弱気な俺の発言に、仁王は何かを言い掛けたが、俺の顔を見て止めた。

俺はゆっくり公園にあるブランコを指差した。


「明菜とブランコに乗って遊びたいわけじゃない。」

「……、」

「沢山走り回って笑いたいわけじゃない。」


俺が俯くと同時に、仁王は唇を噛み締めた。


「俺はっ…、俺は明菜が、もしもの時に助けられる自信がねぇんだよ!」

「ブン……、」


頭を抱えて涙ぐむ俺に、仁王は静かにタオルを差し出してきた。

そう、俺は明菜の病気の事を詳しく知っているわけじゃない。

柳生から伝えられた内容くらいしか理解出来ていない。否、理解しているのかも謎だ。


「……さんきゅ、」


俺は仁王から差し出されたタオルを受け取り、礼を言って、また俯いた。


「……もう、会う気は無いんか?」

「……ああ。」


仁王の問いに、俺は短く答えた。


「失礼だろぃ?何の知識も持ってない俺が、守ってやる、なんか言って明菜の前に出るのは。」


くしゃっと俺は自分の髪を掴んだ。


「……ブン。」

「あ?」


俺が顔を上げると、先程とは打って変わって、仁王が満面の笑みを浮かべていた。


「な、何が可笑しいんだよ…!」


馬鹿にされた気分だ。

俺は仁王の態度が鼻に付いたので、暫く、笑いを堪える仁王を見ていた。


「で、何なんだよぃ?」


呆れた口調で言い放つと、仁王は口の端を吊り上げた。


「ブン、そんなの簡単なんじゃよ。」

「は?」


何がだよ。

俺には明菜を守ってやる権利なんか、全くと言っていいほど無いんだ。


「だから…っ、」

「勉強じゃよ。」

「は?」


仁王に怒鳴ろうと立ち上がったが、意外な答えが返ってきたので、少しよろけてしまった。


「な、何言ってんだ?」

「理解出来んなら、勉強すればよか。」


俺は多分この時、目が点だったに違いない。

だけど、この仁王の言葉で俺は頑張れたんだ。

もう一度、頑張ろうと思えた。


「ははっ、……仁王、最高だな。」

「任せんしゃい。」


ニッとお互いに笑い合い、拳同士をぶつけ合った。

俺は本当に単純だと思う。

大嫌いな勉強だけど、明菜の為なら頑張る事ができる気がした。

そして俺は仁王の助言通りに、小児糖尿病という病気について調べ始めた。

君を理解してから、君を迎えに行くために。

それまで、

その時まで、

待っていてくれるか?

明菜……。













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