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飴玉注意報
優しい嘘









コトン、

明菜の病室の花瓶に花が飾られた。


「いいのですか?あんな嘘。明菜らしくない。」

『ん、いいの。』


無表情で白い布団を見つめる明菜。

ブン太が病室を出ていった後、柳生はそのまま病院に残り、明菜が落ち着くまで待合室に居た。

仁王はブン太を追い掛けて帰った。


『ブン太君は、私なんかには勿体ない。』


ぎゅっとシーツを握り締める明菜は、どこか切なげで、苦しそうだった。


「……そうですね、明菜は恋はしないと決めていましたからね。」

『……うん。』


黙り込んだ明菜。

そんな明菜を余所に、カタンと音を立てて柳生は立ち上がった。


「水、代えて来ます。」

『ありがとう。』


病室から柳生の足音が遠くなるのを確認した明菜は、小さく笑った。


『何が…、恋よ。』


体が弱くて、何もできなくて、

私がブン太君と一緒に居て言い訳が無いの。

ブン太君には、素敵な女の子が現われるから。

ブン太君の今の感情だって、きっと同情でしかないから。

だから、決めたのに。

恋なんかしない、って。


明菜は目を瞑り、自らの腕で体を包んだ。


『……って、』


小さな体を震わせながら、涙を零した。


『だって…、』


白いシーツに染みが広がる。


『だって好きになっちゃったんだもん!』


ぎゅっと体を包み、明菜は泣いた。

病室の外では柳生が花瓶を持って俯いていた。


『なんでっ、なんで私が…、恋なんかしたら駄目だってわかっていたのに!』


悲痛な明菜の叫びが病室に響く。

柳生は噛み締めるように俯いたまま、涙をこらえ、明菜が落ち着くまで病室の前で座り込んでいた。

時折聞こえる明菜の啜り声。


「……明菜、貴女は頑張りすぎています。」


眼鏡の奥の瞳は何か遠くを見つめています。


「もう少し、甘えて下さい。」


柳生は溜め息を吐きながら、花瓶の花に手を伸ばした。

花弁に触れ、少し微笑んだ後、花瓶を抱えて病室の扉を開けた。


「いやー、遅くなってすみません!水を……、」


柳生が笑いながら病室へ入ると、明菜は眠っていた。


「……どこまで、悩んだんですか。」


きっと私には想像もつかない程、悩んだのでしょうね。

柳生は赤くなった明菜の目蓋に触れた。

すると明菜が身を捩り、小さな息を漏らした。


「……もう、我慢するのは止めて下さい…っ!」


柳生は明菜の手を優しく握り、顔を歪ませた。


「自分を、偽らないで……っ!」


柳生の手は震えていた。


「……どんな気持ちで、あんな嘘を吐いたのですか?」


貴女はまだわかっていません。

自分がどれだけ丸井君に依存しているか…。


柳生は、そっと病室を後にして家へと帰った。

それからの明菜の病室は、とても静かで淋しかった。

花瓶に挿された花も、どこか儚げな表情を浮かべていた。












あきゅろす。
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