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飴玉注意報
誤魔化し









時を刻む時計がうるさい。


『なんか、ごめんね?』

「いや、別に…。」


俺は明菜の為に何が出来るんだ?

柳生から明菜は病気だと伝えられてから、俺は家に帰って沢山考え直した。

でも、どうしたらいいかわからない。


『ブン太君には沢山迷惑かけちゃったな…。』


明菜が話す声だって、今の俺には遠く聞こえる。


『私、病気なのに…、』


俺は何て声を掛けたらいいんだろう、明菜が傷つかないように?励ますのか?


『……、ブン太君。』


ほら、また俺は明菜に、困った顔をさせてしまう。

困らせているのはわかっているのに、俺の口は堅く閉じられている。


『…ちゃって、ごめ、ん…。』

「え……?」


明菜が泣きだした事により、俺は我に返った。


「おまっ、何で泣いて…、」

『病気なのに、……っ好きになっちゃって、ごめんなさい!』


明菜は肩を振るわせながら、小さな手を握り締めていた。

白い布団に涙の後が染みていた。


「な…、俺は…、」


好き?

君は俺の事を好きだと言ってくれたのか?

あんなに酷い事をしたのに。

あんなに怖い思いをさせたのに。


『こんな体、嫌だよぉ!』


半ばパニック状態になった明菜を、俺は慌てて押さえ付けた。


「明菜、落ち着けって!」

『嫌!もう、私は…っ、』

「ばかっ!またぶっ倒れるぞ!」

『っ、え、っく…、』


明菜は俯いた。

ゆっくりと俺の腕から手を離し、呼吸を整える。


「落ち着け、な?」

『……。』


明菜の頭をポンッと軽く叩くと、明菜は少しだけ微笑んだ。


『……私の病気ね、死ぬわけじゃないの。』

「……へ?」


俺は間抜けな声を出した。

何だよ、死ぬわけじゃない?

なら俺達は幸せになれるんじゃねぇの!?

柳生がどうしてあんなにも深刻そうに話したのか、俺には理由がわからなかった。


「んだよ、大したことねぇじゃんか!」


俺はニカッと笑い、明菜の手を取った。

病気は命に関わらないし、俺等は両想い。

こんなに幸せな事ってないだろぃ?

俺は嬉しさの余り、明菜の体を抱き締めようとしたが、明菜が俺の肩を押した。













**********













ブン太と明菜が病院に居る頃、柳生は仁王の家に居た。

昨日ブン太が病院を出ていった後に、仁王が気を遣い、泊めてくれていたのだ。


「初めてだったんです。私。」


柳生は、静かに全てを仁王に話していた。


「あんな女の子らしい明菜を、私は知らなかった。」

「……と、言うと?」

「明菜は、病気である事を小さな頃から、酷くコンプレックスだと思っていました。」


柳生は昔を思い出すように目を閉じた。

仁王はその様子を見て、目を細めた。


「明菜は、大概、外には出ないんです。いつ何時倒れるかわからない日常の中で、明菜は精神的にも追い込まれていました。」

「じゃが、死には至らんのじゃろ?」


仁王が眉を潜めて柳生を見た。

それに柳生は首を振った。


「いえ、倒れた時間が長ければ、死に至る事もあります。」

「ほぅ…。」

「しかし、明菜は最近、外に出たがるようになったと、明菜の母から聞いていました。私は正直嬉しかった。内気な明菜が目を輝かせているのを見るのは、本当に。……まさか恋をしているとは、思っていませんでしたが。」


柳生は苦笑いしつつも、少し頬が緩んでいた。

まるで自分の事のように、笑っていた。


「その相手が丸井、か。」

「えぇ、私も最初は驚きました。明菜が退院の時に、丸井君を待っていると言いだしたので。」

「ははっ、柳生、おまんが嫉妬か?」

「ま、まさか!ただ驚いただけです!」


慌てて首を振る柳生に、仁王は冗談じゃよ、と言い、笑っていた。


「……丸井を、迎えに行くとするかのぅ?」

「……そうですね。」


ゆっくり仁王と柳生は立ち上がった。


「はぁ、丸井には協力代金を要求したい位じゃ。」

「ははっ、そうですね。」

「お、柳生、おまんが乗ってくるとは珍しいのぅ?」

「丸井君は、私の大事な妹を奪った男ですからね。」

「くくっ、納得じゃ。」


二人は、明菜とブン太が居る病院へと向かった。













*********

















「……明菜?」

『ごめ、ん。』

「……っ、何が?」


君は俺を、また不安にさせる。

やめてくれ、それ以上は聞きたくない。


明菜から弱々しく押された肩がやけに悲しい。


『ブン太君には、迷惑掛けたくない。』

「俺は気にしないよ。」


俺は一生懸命に声を絞りだした。


『違う、…違うの!』

「何が、何が違うんだよぃ!」


俺は怖くて明菜の肩を強く掴んだ。

また離れていくのか?

やめろ、やめてくれ!


『……もう、会いたくない。』

「……え?」


何だって?

聞こえてきた君の弱々しい声が、俺の心臓をぶっ壊す勢いで俺の中に入ってきた。


『もう、会えない。会いたくない。』

「ちょ、待っ…、」

『さようなら。』


俯いていた君の表情は見えなかったけど、一人にしてくれと、明菜が言っているような気がして、何も言えなかった俺は病室を出た。


病室を出ると、柳生と仁王が居たけど、俺は何も言わずに病院を後にした。













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