飴玉注意報
もうずっと、貴方
「明菜、退院おめでとうございます。」
『ありがとう、ひろ。』
今日はひろが退院祝いに花束を持ってきてくれたの。
別に仮退院だからいいって言ったんだけどね。
あ、そうそう。
ひろが私の立海に居るっていう知り合い。
優しくて本当に紳士だと思う。
「ごめんなさいねぇ?明菜ったら街中で倒れちゃって。バカなんだから、もう。」
「いえ、明菜の心配をするのは馴れましたよ。」
『ひ、ひろ!』
お母さんとひろの会話がなんだか恥ずかしかった。
小さな頃からひろとは友達だったから、親同士も仲が良い。
「明菜、じゃあ後はひろくんにお願いするからお母さんは仕事に行ってくるわね?」
『はぁーい。』
「じゃあ、ひろくん頼んだわよ?」
「任せて下さい。」
今日お母さんは仕事が入っているらしいので、ひろと帰宅。
気持ちがワクワクしている。
確かに我が家に帰るのは嬉しいけれど、それより彼に会えるのが楽しみだった。
ブン太くんは、ひろをみたらびっくりするかな?
『ひろ!行こ!』
「はいはい。」
外で待っていよう。
ブン太くんにすぐに見つけてもらえるように。
***
病院の正面玄関で、ひろと一緒に先生に会って帰ろうとしていた。
『ねぇ、ひろ、まだここに居たい。』
「構いませんよ?」
ブン太くんが来ない。
そんなはずはないし。
ありえない。
絶対来るって言ってくれたから。
『……』
「……」
黙り込む私に何も聞かないで一緒に居てくれるひろ。
私の肩にタオルケットを掛けてくれた。
さりげない優しさが嬉しい。
でも、
『ひろ、帰ろうか。』
「いいんですか?」
『うん。約束してたんだけど…、来ないみたいだもん。ブン太くん。』
ひろは少しだけ目を丸めて、その後に困ったような顔をした。
まるで自分が悪いように。
『ねっ、帰ろう!』
「…そうですね。」
私達は病院の敷地を出た。
ひろが私の車椅子を押してくれる。
カタカタと小さな振動が私の涙腺を揺さ振っていた。
ひろの優しさが嬉しい。
ひろの温もりが愛しい。
でも、違う。
私が欲しいのはブン太くんからの“おめでとう”だった。
こんなに優しくしてもらっているのに、こんなに助けてもらっているのに、私は不謹慎かな?
もうずっと、貴方でいっぱいなんだよ?
こんな気持ち忘れてたよ。
“好き”
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