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また会いたくて
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『景吾〜!』



「ちんたらしてんじゃねぇよ。ほら。」



氷帝学園へと続く道程は、まだほんの少しだけ桜が舞っていた


跡部は桜に手を差し出す。

それに桜が応える

昔のように手を繋ぎ合う





『手、おっきくなった?』



「普通だろ。」




『ふーん。』



何気ない会話が楽しい


私、幸せだと思う


景吾は、私に沢山の話を聞かせてくれた。

侑士とがっくんが喧嘩した事とか、日吉くんが犬に追い掛けられた事とか。

私も沢山話した。
宍戸の弱味とか、侑士の秘密とか。

本当に他愛もない話を。



ただ、学校に近づくにつれて、景吾の手の震えが酷くなっているのには、気付かないフリをした。




「ほら、入れよ。」



『うん!』




誰も居ない校舎。

教室にも誰も居ない。

私と景吾だけ。



カタンと少しだけ音をたてて、桜は自分の席に座った。

それに跡部も続いて、前の席に座った。




「そう言えば、席、前後だったな」




『そう言えばって何よ!私なんか景吾の背中見るたびに、あ〜格好良いって思ってたのにー。』



ぷーっと顔を膨らませれば、景吾は軽く笑った



「セクハラされてる気分だ。」



『酷いっ!』




私が机に身を乗り出せば、景吾が体を横に向けて顔をこちらに向ける


いつもと変わらないのに




『……っく』




全く変わらないのに




「泣くなって」



跡部は、くしゃっと桜の髪に触れ、頭を撫でた。



涙が零れてしまう




『け、ご…』



跡部がきゅっと桜の手を握った




「頼むから…泣くなって」



景吾は顔を伏せた


きっと涙を堪えているのだろう


でも、私には視界がぼやけてよく見えなかった。



『ふっ、う…』



流れる時間に比例するように、涙が溢れていく


一秒一秒が苦しい





「桜。」



また、景吾が私の手を握った



『なぁに?』



私は必死で涙を堪える



「約束、守れそうにねぇよ…」



『け、い…』



私が呼び終わる前に、景吾が私を抱き締めた


とても強く


だけど今の私には、その強さが心地よかった










“私を忘れて?”










景吾に言った気持ち


約束して欲しかった


景吾には私を忘れて幸せになる権利がある


私なんかが景吾の気持ちを独り占めしちゃいけないんだ




「無理だっ!忘れるなんて、出来ねぇ!」




『景吾…』




耳元で、景吾の悲痛な声が聞こえる


わかる。景吾は泣いてる。




「んでだよっ!なんで忘れろなんて言うんだ!」



ぐっと抱き締める力を込められると、景吾の苦しみが伝わってきて、心が痛かった



今にも溢れそうな貴方への想い




『嘘よぉ…』



景吾に伝えたい。



「え?」




『全部嘘なのぉっ!』



一言口に出せば、簡単には止まってはくれない



「なに、言って…」




もう、時間が無いの



言わなくちゃ、きっと私は後悔してしまう




『本当は忘れて欲しくなんか無いの!また戻って来たのだって、景吾を元に戻したいんじゃなくてっ、ただ私が景吾に会いたかったのっ!触れたかったの!抱き締めて欲しかったの!』




しんとした教室で、私は本音を吐いた



景吾を困らせる



景吾は優しいから、私が忘れないでって言えば、絶対に想い続けてくれる。


でも、それじゃダメ。


わかっているのに、私の口からは出てこない。


出てくるのは、貴方への溢れんばかりの想い




『ずっと、ずっと景吾の隣で笑っていたいっ!ずっと景吾の一番でいたいよぉ!!』




どうしてかな?



「桜…」



こんなにも滅茶苦茶な私を、貴方は抱き締めてくれる



ああ、この腕を離さなくちゃいけないんだ



あと少しで、貴方の温もりが消える




「忘れねぇから」




そうやって貴方は私が一番欲しい言葉をくれる




『絶対、忘れねぇ!』




この時、私は初めて見たかもしれない。

景吾のアイスブルーの瞳が揺らいだのを。




「逝くなよっ…」



『景吾…っ』




「俺だってお前が消えるのは嫌なんだ!」




『っごめ…んねっ』





勝手な事をしてごめんなさい



私は景吾に向かって、そう呟いた




















「……時間なんだろ?」



私は景吾の肩に頭を乗せて、寄りかかった



『……う、ん』



どうしよう



「約束は“忘れない”に変えような」



『っ…うんっ!』



貴方の幸せを願いに、ここへ戻って来たのに

私は貴方の未来を奪ってしまうのかもしれない




『景吾?』



「あーん?」



『やっぱり、恋はしてね?』



寂しいけど、これがいいのかもしれない。



「……ああ」



景吾だってわかってくれる。



『私、景吾が好きだよ』



離れたくない



「俺も桜が好きだ」



傍にいたい



『ずっと好き』



そんな事すら許されなくて



「ああ」



言いたいことが沢山あるのに、上手く伝えられない



『ずっとだよ、それとね、それと…』



伝えたいのに



「…っもういいからっ!」


『け、景吾…』



また抱き締められる



触れれば離れたくなくなる




「……笑え」



『う、ん。』



これほどまでに私達はお互いに溺れていたのだろうか


これから私達は違う道を歩く



景吾が追い掛けるのを、私が待つ





「……」




『もう、何て言えばいいかわかんないや…っん』




少し笑いながら言うと、景吾は私の顎を掴み、優しいキスを落とした



愛の言葉を添えて



本当に優しいキスを





「愛してる…」





唇からの熱が消えたとき



私達は笑えているのかな?































静かな教室に、春の心地よい風が入ってきた






「永遠にお前は俺様の女だ。」




跡部は、自分の後ろの席に寄りかかった



「代わりなんか居ねぇ。」



目を閉じれば思い出す




「なぁ、そうだろ?桜………」



君の全てと唇の熱を






一筋の涙が跡部の頬を伝った






今度、また出会う時




私達は最初にこう言うだろう






“また、会いたくて”




だから会いに来たんだと。









fin
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