SHORT
お菓子、くれますか?(幸村精市)
「綾、苦しいよ。」
俺の腰にぎゅっと巻き付いて離れないのは彼女の綾。
『嫌。精ちゃんと一緒に居たい。』
涙を堪えている君の目は、いつもよりも赤くて俺を困らせる。
「どうしちゃったんだい?」
今日は積極的だね、なんて言って軽く笑った。
『精ちゃん…。』
「なんだい?」
ふわりと綾の頭を撫でれば、君は一筋の涙を流した。
『帰ってきて、くれて…、ありがとうっ!』
小さな子供のように泣きじゃくる綾に、俺は愛しさが湧いた。
「どういたしまして。」
微笑めば、綾も笑い返してくれた。
『精ちゃん、ハロウィンだよ?今日。』
「ああ、忘れていたよ。」
カレンダーを見れば、赤く印が付けてあった。
『精ちゃんの退院記念だよ?』
「そうだね。」
きっと君は俺が入院している間、数えきれない程泣いたんだろう。
俺が想像出来ないくらいに沢山。
俺を想いながら、独りで。
『今日は今迄で一番甘いお菓子を貰った気分だよ!』
はみかみながら笑う君に、甘いキスをした。
お菓子、くれますか?
(来年も、ずっと。)
2009/10/31
ハロウィン記念
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