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初めて触れた温かい人








ザァーッ


ひどく雨が降る夜。

君と俺は出会った。















「財前くーん。君、仕事舐めてるでしょ。」


大学を卒業してから、俺は一般企業に就職した。

テニスに熱中していた中学、高校、大学からは想像できないような、平凡で当たり障りない生活。

元々ドライな性格やったからか、周りからはよう勘違いされる。


「はぁ、これでもやる気、あるんスけど。」

「はいはい、わかったから。じゃあ、君、帰っていいから。」

「……はーい。」


東京って、住みにくい。

名字部長もそうやけど、俺には東京モンみんながお高くとまっとるように見える。

時々、本当に苛々してまう時がある。

せやけど、俺の性格上、爆発させる事はまず無い。


「あー、死にたい、ほんまに。」


目を閉じれば思い出す。

楽しかった、夏。


「……。」


戻りたいとは思わない。

だって進まなくては変わらないから。














**********

















ザァーッ


貴方は天使?

それとも悪魔?

少なくとも私には……。

















『きゃあ!』

「うるさいっ!お前等さえいなければ俺はもっと出世出来るんだよ!」

「あなた!落ち着いて下さい!」


ガシャンッ


『……っ!』


壊れてる。

何もかも。


「名前!あなたは二階に行きなさい!」

『……ん。』


毎日のように振るわれる暴力。

怖い?

違う、そんな事ない。

ただ父さんが嫌いで仕方がないだけ。

下から母さんが泣いて詫びる声が聞こえる。

どうして母さんは父さんと結婚したの?

どうして私を生んだの?

ねぇ、わからない。


「おいっ!だいたいお前が悪いんだよ!なんでお前が家にいるんだ!」


ぎゅっと耳を両手で覆った。

聞きたくない聞きたくない!

そう、私は逃げてるの。


「やめて下さい!名前は何も悪くありません!」

「そうだなっ!お前の育て方が悪いから薬なんかする子に育ったんだ!」


違う、母さんは悪くない!

ああ、助けて、誰か……!

私はまた今日も自分を傷付ける。

母さん、ごめんね。






















ザァーッ


「……誰。」


男は深くフードを被り、片手をポケットに突っ込み、もう片手で血が滴るナイフを握っている。


『あ、貴方こそ……、』


女は同じようにフードを深く被り、両手で持っていた何の汚れも無いナイフをカシャンと落とした。


出会ってしまった。


出会ってはいけない二人が、今、ここで。

神様は見ていたのだろうか?

見ていて出会わせたのだろうか?

もし、見ていたとしたならば、

きっと神様なんかいない。

だって、人がまた、

死ぬ事になるのだから。














あきゅろす。
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