[携帯モード] [URL送信]

遠回り
04.声色は変わらない






「キャー///!!」





毎日同じことの繰り返し



今日もテニスコートは、黄色の歓声に包まれていた



美香は、どうせ、と思いながら図書室へと足を運ばせた





『(跡部先輩もいないしなぁ…)』




静かな図書室


話す相手がいなければ、話し声さえ、ほとんど聞こえてこない




カリカリと鳴るシャープペンシルの音と、小さな話し声だけが聞こえる



ここには、テニスコートの黄色い歓声は聞こえてこない




『あ〜…新刊だ』





いつも忍足と帰る時に時間を潰すため、立ち寄っていた図書室



その時に何気なく手にとって読んでいた、シリーズ制の恋愛小説




『続き…かぁ』




ゆっくり手にとってみる美香



昔の気分に浸ってしまう



1ページ捲るごとに、まだかな、と考えていた自分



それはページを重ねるごとに大きな感情になっていて…



待たせてもうたな、その一言がどんなに待ち遠しかったか…



(待ってないよ!)



(うそやろ〜?昨日よりめっちゃページ進んどるんやない?)



(えへへ…バレた?)



(そりゃバレるわ)





楽しかった日々は帰ってこない



ボーッと本を見つめていた美香は、周りから見たら変な人だったに違いないだろう




気付けば下校時刻になっている



図書委員が窓を閉めはじめた



『(帰らなくちゃ…)』



そう思うが、本が気になる


『(借りようかな…)』



新刊コーナーに立ちっぱなしだった美香は、どうしようか迷っていた




「ちょお図書委員さん!待って!新刊借りさせてや!」



ガラガラっとドアが開き、誰かが入ってきた




『(どうしよ〜)』




うーん、と悩む美香の横に入ってきた男は立つと、あっ、と声をあげた





「あ〜、俺が狙ろうてたヤツや〜。先越されてしもた」



何もかも跡部のせぇや!と唸る男


美香は、男を見て目を丸くした



『え…先輩…?』




「は?」



パッと顔を上げ、見上げる忍足



「……なんやビックリしたわ」



『あ、そうですね』




何故かかしこまる美香



「それ、借りるん?」




『あ…えっと…』




「読み終わったら回してくれへん?」



『あ、はい…!』



「ほなな」




ガラガラっと、またドアを開けて出ていく





図書委員さえ居なくなった図書室に二人きりになった



その事実が嬉しかったのかは、分からないところだが



美香は、床に座り込んだ





『びっ…くりした…』






久しぶりの会話




声色は変わってない




いつもの貴方の心地よい声




『先輩…///』





愛しさが溢れてしまう




久々の二人だけの約束。










第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!