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銀魂短編
未来を捧ぐ:神威






※暴力・流血表現があるので、苦手な方はご注意ください。















ガツリと蹴られ、頭が割れた。
血がドクドクとあふれ、頭の下に泉ができるのを、どこか客観的に感じる。


「あーあ、君には結構期待してたんだけどな」


傷だらけで倒れていた私を、容赦なく蹴りつけた男の表情が笑みに包まれていることに、私は少なからず落胆した。
殺されることにではない。
やっぱり、私にも笑顔を見せたことに、だ。

この人はよく言っていた。
最期に笑顔を送るのは、殺しの作法であると。

私はどこかで、私の最期にはもっと感情的な何かを見せてくれないかと期待していた。無表情でもいい。軽蔑でもいいから…、特別がよかった。

しかし結局は、私もその他大勢のうちの1人にすぎないんだと自覚しただけだった。


「は、やく…殺、して…」


口から血をこぼしながら、ようやくそれだけ言った。

負けた私には、死しかない。
だって負けた私になんて、興味ないんでしょう?
こんなみじめな思いをするのはもう嫌だった。
早く殺してほしい。あなたの手で。
こんなに怪我をして、血だらけで、頭をかち割られてもなお、私が死ぬことができないのは、ひとえに、私もまたバケモノだから。

この人に出会ってからは、バケモノに生まれたことに感謝し、それを誇りと思えた。
しかし今は、なかなか死んでくれないこの肉体が、ただ煩わしい。
弱いバケモノは見苦しいだけだった。


「殺してよ…殺して…」


喘ぐように何度もつぶやく。

私は負けた。早く死にたい。
悔しい。屈辱的。生きていることが恥ずかしい。
痛みなんか一つも感じない。痛みを感じるとしたらそれは、この屈辱感から感じる、生きることに対しての苦痛だけだ。
こんな姿をいつまでもあなたの前にさらしていたくはない。私にこれ以上恥をかかせないで。
あなたの手で死ねるのなら、それは私にとって本望だから。

殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して…


気付けば、神威の表情からは笑みが消えていた。
冷たい目で私を見下ろしている。
それが少し嬉しかったのは、言うまでもない。

ガツンガツンと数回、体を蹴られた。
アバラはすでに何本か折れていて、今の衝撃でその折れた骨が内臓に突き刺さったのを感じた。
すぐに口からゴプリと血があふれる。

でもこのくらいじゃ、バケモノの私はまだ死ねない。

ひと思いに殺してくれないのは、私への罰なのか。


「…ナマエってさ、ガンジョーだよね。そういう所、好きだよ」


いつの間にか、しゃがんで私と目線を合わせていた神威は、やはり笑っていた。


「あと、死にかけで殺してって言う割に、目がギラついてる所も悪くない…すごく、そそられるよ」


そう言った神威は、私の上に馬乗りになった。
鋭く細められた目に射抜かれる。


「負けたヤツに興味はない。だけど君は許しを請うでもなく、諦めるでもなく、自分の弱さを憎み、悔しんでいる。そういうのは、嫌いじゃない。それに君は女だ。君の産む子に興味が沸いたよ。俺のために、俺の子を、強い子を、産む気はあるかい?」


神威の望むことなら、何だってする。
ひとつ頷けば、乱暴に口づけされた。

唇を離した神威は私を見下ろしながら、私の口から自分の唇に移った血をべろりと舐め上げた。


「そのために、君自身にももっと強くなってもらわなきゃ困るよ」


負けたから、生きることは恥だと思って、死にたくてたまらないと思ってたのに。
神威の言葉だけで、笑えるほど簡単に私の意志は180度変わった。
神威が満足するような子を作るまで、私は死ねない。





+++


神威にとって、血のつながりなど関係ない。

少しずつ大きくなる自分のお腹をするりと撫でれば、それに反応するかのように中で動くのを感じた。
元気な子。日に日に愛しさが増していく。


しかし神威が求めるのは、踏み台となる強者のみ。
…自分の子だろうと、ためらいなく殺すだろう。

そしておそらく私は、神威に言われれば、どんなに愛しい我が子でも、ためらいなく差し出すだろう。



たとえその子が、神威に殺されると分かっていても。

















もうすぐ生まれるであろう愛しい我が子の未来を捧ぐ、何よりも愛しい、あなたに。









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