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銀魂短編
conversion:銀時


「おーい、ナマエちゃん?」




「…何」

「お、俺のために来てくれたんじゃないの?銀さんお腹すいちゃったなーとか…ハハ」


「……」




conversion: 転換




「おい天パ、黙るアル。ナマエは今、昨日見れずに録画しておいたドラマ見るのに夢中ネ」

「おいおい、んなもん自分家で見てこいっつーの…」

「怪我人は黙って寝てろヨ」

「そうですよ、銀さん。うろうろしてたらまた傷口が開きますよ」

「るっせーなァ、新八まで。みんなして銀さんをいじめたいんですかコノヤロー。もういいもーん!銀さんふてくされちゃうからァ」

「あーもう、いい大人が何言ってんですか!!」

「ほんとダメなおっさんアル」

「だってナマエが構ってくれないしー」



ギャーギャーといつもの様に騒いでいる三人をしり目に、私はドラマに集中してるフリをしていた


銀ちゃんが大怪我をして帰って来たと聞いたのは今朝、妙ちゃんが慌てて私に教えに来てくれた
新八君や神楽ちゃんも少し怪我をしていたらしい

この三人が怪我をすることなんて日常茶飯事だが、銀ちゃんの怪我はたびたび、度を越したものがある

今回もそれだった

一体何をしてきたらそんな傷を負うのか、私には見当もつかない

もう、攘夷志士でもないのに…といつも思う


だから今朝も、すごくすごく心配して、万事屋まで駆けてきたというのに、


銀ちゃんはいつもそうだ

どんなに酷い傷を負っていても、全然何事も無かったかのように私を迎える

日常と非日常との切り替えが恐ろしく早いのだ

銀ちゃんは、傷のことも、戦いのことも、さっさと忘れてしまおうとする(それはもちろん表面上の話で、実際は絶対に忘れたりはしない人だが)

だから私がどんなに心配してても、へらへらとふざけた態度で、全て受け流されてしまう


何となく、悔しかった

私にも心配させて欲しいのに、無理して平気な顔もしないでほしいのに


私はただ、私がどれだけ銀ちゃんのことを大切に思っているのか、伝えたいだけなのに…



「ぅ…、っく…ひっ」

「ナマエさん!?ど、どうされたんですか?」


気づいたら、泣いてた

ホントかっこ悪くてやになる


「ちょっと…っ、ドラマに、かんど、しただ、け…」

ずず、と鼻をすする

新八君と神楽ちゃんが微妙な顔してるから、テレビを見てみたら、主人公とその友達がドジョウすくいの練習をしてた

あははは…とテレビからマヌケな笑い声がする

ここは笑うシーンだったらしい

なんて間の悪い…


「おーい、神楽、新八、お前ら定春の散歩行ってこい」

「えー銀ちゃん、さっき行っ…」

「はーいはい、さっさと行こうね」

銀時の意図を察した新八は神楽をなだめつつ、そそくさと部屋を出ていった


部屋がシンと静まり返る

銀ちゃんがふぅ、と溜め息をついたのが分かった


「ナマエ…俺が悪かったよ」


いつの間にか隣に座っていた銀ちゃんが、私の頭に手を置いて言った

やっぱり、と思う
やっぱりこの人は私の考えてることとか全部分かってて、敢えて私から目を逸らしていた

自分が怪我したことも、私が銀ちゃんを心配してるってことも、全く知らないという顔をして

…私が泣くから、もう知らんぷりは諦めたようだった


「俺のこと、心配してくれてたんだよな?悪ィ、だから泣くな」


そのまま、頭を撫でられて、逆に私は涙を増やしてしまった

私も分かっていた
それが彼なりの優しさだということを


泣き止まない私を見かねてか、銀ちゃんは私の肩を引き寄せ抱きしめてくれた


それだけで、
さっきまでもやもやしてたのが全部吹っ飛んでしまうから、私は随分都合のいい人間だと思う


「心配したの」

「あぁ」

「私の気持ちも、ちゃんと受け止めてほしいの」

「、うん」

「銀ちゃんが私に心配をかけたくないっていうのはわかるけど、」

「うん…」

「私が心配するのは、それだけ銀ちゃんを大切に思っている証拠だから…だから、もっと私を見て」

すると銀ちゃんは少し変な顔をした

「ナマエを、見る?」

私はこくりと頷く

それを見た銀ちゃんはふと小さく笑って




「俺はもう随分前から、お前しか見えてないけどな」


知らなかった?なんて、からかうような嬉しそうな顔をして覗き込んでくるから


私はまた涙が止まらなくなった


滲む視界いっぱいに銀ちゃんの顔がひろがって

まるでそれが決まり事のように、唇が吸い寄せられた

少しずつ深くなっていくキスがとても愛おしくて、涙のしょっぱさも私自身も全部、一緒に溶けてしまうんじゃないかなんて


しばらくして名残惜しそうに離れていく唇を見て、やっと私の心は少し落ち着いた




私もそろそろ、切り替えなくちゃ

よし、と言って私は立ち上がる

「おわっ」

私を抱きしめていた銀ちゃんの腕がのびながら滑り落ちて、腰のあたりでストップする

「じゃあ、お腹をすかせた銀ちゃんのために、何か作ろっか」

そしたら銀ちゃんは私の腰あたりに巻きついたままの腕に少し力を入れて、一言

「えー、俺どうせならナマエをおいしくいただきた…いてててッ!!」

「…ばか」

思いっきり頬をつねってやった

そしたらその手をぐいと引っ張られた

「わっ」

ちゅ

唇にもう一度軽いキス


「しょーがねぇから、今はこれで我慢するわ」

にやりといたずらっぽく笑う姿に、頬が熱くなった気がした

本当に愛しくて大切だと、心から思った





切り替えの早いあなた

でも私はそんなに器用じゃない




だから私は、あなたのキスで、ようやく日常を取り戻すことができるのです




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あきゅろす。
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