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「どーぞ」
吸殻の溜まった灰皿が俺の前に置かれた。
少し驚きながらその人に礼を言う。
「あ、りがとうございます」
「いえ」
―煙草、俺と一緒…ハイライト・メンソールだ。
何となしに男を見遣ると、その人はステージの方をじっと見つめている。
―なんか…雰囲気のある人だなぁ…。
「透!」
俺の名前が呼ばれると同時に煙草を吸い終えた男は去って行った。
「英輔…遅い」
「ごめんごめん。よくライブで会う子が居てさー、ちょい話してた。透、大丈夫?見える?」
すでにステージ前には結構な人だかりが出来ていたが、全く見えない程ではない。
「見えるよ…英輔が背、高すぎるだけ」
言った瞬間、ポンッと英輔の手が俺の頭に添えられて、すぐに離れていく。
叩く、というには及ばない優しすぎる仕草だった。
「それ、気にしてるんだぞ!」
「身長低いの気にしてるってのはよくあるけど、身長高いの気にしてるってのもなんか珍しいよね…
あ、暗くなった」
「おっ」
なにか言い返そうとしていた英輔は、俺からステージへと顔を向け直した。
スモークが焚かれたステージ上に人影が現れて、ぱらぱらと拍手が上がる。
そして。
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