lack
最低限外出しないようにしている俺はライブなんてもってのほか、行ったことがない。
つまり英輔に誘われた今日、初めてライブというものに参加することになる。
それが大好きなイディオットのなんだから、胸が高鳴ってしょうがない。
イディオットは男性四人で構成されている日本のインディーズ・ロックバンド。
最初、英輔から薦められてすぐに気に入った。
楽曲は歌詞なんかも全て、ギターヴォーカルの諏訪理人が手懸けているらしい。
まったく、尊敬に値する。
「俺、上のロッカーに荷物入れてくるから透、前行ってな」
「あ、うん」
英輔が階段を上った二階先へと消える。
俺はステージ前に集まる人の群れに加わった。
「……」
けれど、段々と居心地が悪くなってくる。
人が多い場所は、やはり余り好きじゃない。
近くにいる女の子達がキャーキャー言いながら、イディオットのメンバーの話をしている。
その場を立ち去りたくなり、後方にあったカウンターを振り返ると一人の男がそこで煙草を吹かしていた。
俺は特に気にせずにカウンターまで足を進めて、取り出した煙草に火を点ける。
ふと灰を落とそうとして視線をさ迷わせていると、横からにゅっと手が伸びてきた。
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