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首輪


ユズの部屋は、床に服や小物が散乱し、さらに壁に貼られたポスターなんかも破かれていてひどい有り様だった。

ユズはショックで言葉もないようだった。硬い表情のまま、ただ散乱した部屋の中を見つめる。

「大丈夫か?」

俺はそっとユズの肩を揺らした。

「……うん、」

ユズはこんな時でも気丈に、弱々しくはあるけれど笑みを浮かべてみせる。

「今はショックかもしれねぇけど、一回ちゃんと部屋の中確認してみな。俺、外で待ってるから」

「うん、ありがとう。レイジ君」

そう言ってユズは部屋の中に入っていった。

俺はドアの横の壁にもたれかかってしばらく待つことにした。つい、握りしめる拳に力が入る。クソ、と小さく呟いて壁を叩いた。知らないうちに手がタバコの入ってるポケットに伸びるが、そばにいるユズの事を考えて、その手をまた強く握りしめる。

頭の中は一体誰があんな事をしたのか、その事でいっぱいだった。

金目目当てで部屋を荒らしたのか。

いや、それなら壁のポスターを破る必要はないはずだ。

それなら一番厄介だが、ユズ個人を狙った悪質な嫌がらせか。

部屋の中のユズが心配でなかなか考えも纏まらない。

どっちにしろ、ユズを傷つける奴は許さない。犯人を見つけたらただじゃおかないと思った。


ユズはなかなか部屋から出て来なかった。

「ユズ……?」

さすがに心配になって、開けっ放しのドアからそのまま中を覗いた。

ユズはちょうどこっちに背を向けて部屋の真ん中あたりに座り込んでいた。返事はない。表情は見えないがなんだか様子が変だと思った。

心配になってもう一度呼びかける。

ユズはゆっくりと振り向く。顔色が悪く、その頬は白く透き通っているように見えた。

ユズは俺に向かって小さく微笑む。

「大丈夫、大丈夫だよ。レイジ君」

その声はどこか上の空で、機械的な響きがあった。

ユズが大丈夫と繰り返さなければ、その声がいつもみたいに明るければ、俺はこんな気持ちにはならなかったのかもしれない。

大丈夫、大丈夫、と俺に微笑みかけるユズ。
今日、トラノスケの事を聞いた時の曖昧に笑う姿とダブる。

俺はそれを見て急に、切なくなった。ユズがその瞬間、さざ波のように静かに、遠くへ行ってしまったような気がして。

そこにあったのは、小さな拒絶だった。

微笑むユズは、何かを押し殺しているように見えた。
だけどそんな風に大丈夫、と言われてしまったら後は何も言えない。境界線を引かれて、そこから先に入り込んではいけないような。

引かれた一線の向こう側。そこに人知れずユズが抱え込んでるものがあるのか。

ユズの心に触れたい、真実を知りたいと思う。だけど踏み込んだら俺もユズももう後戻りは出来ない。そうすることでユズを傷つけてしまうのが怖かった。

ユズの事になるとびっくりするくらい臆病になる自分。

俺は儚く微笑むユズに何も言えずにいた。

出来ることなら、今すぐユズを抱きしめて、「大丈夫だ」と俺が言ってやれたら良かったのに。

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