首輪 ・ 事件が起きたのは合同体育があったちょうどその日だった。 夕暮れ時、俺は寮の廊下を自分の部屋に向かって歩いていた。自分の部屋って事は当たり前だけどユズがいるって事だ。今日のトラノスケの事があって、ほんの少しだけ顔を合わせづらい。今まで以上に、変にユズを意識してしまいそうで。 俺は自分の部屋のすぐそばまで来て異変に気づいた。 ユズが部屋の前でドアに背中を預けてしゃがみ込んでいる。膝に顔を埋めているけれどなんとなく髪色や背格好で分かる。 「どうした、ユズ?」 俺は驚いて声をかける。 「あ、レイジ君。やっと来てくれた。カードキーなくしたみたいで部屋に入れなくってさ」 ユズは顔を上げて、力無く笑った。 部屋の鍵をなくして落ち込んでるみたいだ。 「事務室行けばスペアキーもらえるし、あんまり気にすんな。それよりずっと待ってたのか?」 「まぁね、」 「そっか。悪いな、こんなとこで待たせて」 「ううん、鍵どっかに落とした俺が悪いんだ」 「まぁ鍵はそのうち出てくるって」 俺は元気のないユズを気遣いながら自分のカードキーを使ってドアを開けた。 部屋に足を踏み入れる。それまで何も考えていなかったのに、嫌な予感がしたのはユズの部屋のドアが中途半端に開いたままなのを見たからだった。 「ユズ、」 「うん、俺たぶんドア閉めて部屋出たと思う」 ユズは少し不安げな表情を浮かべて俺を見る。 ユズは中途半端に開いたままのドアに手をかけて部屋の中を覗いた。 「うわ……、」 「どうした?」 俺は嫌な予感に心の中で軽く舌打ちをしながらユズの後ろに立った。 「……これは、ひでぇな。滅茶苦茶じゃねぇか。一体誰が……」 ユズの部屋は誰かが入った事が一目で分かるくらい酷く荒らされていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |