[携帯モード] [URL送信]

純愛小説
2019年2月8日


「私ね、消ゴムが好き」

 一番の初恋かもしれない。
友人の友人に相談された。
それも、今オトコと真剣に付き合っている優くんの持っている消ゴムのことらしい。
物との恋愛も少しずつ増えてきた昨今だけど、まさかくうちゃんが、そうだなんて思わなかった。
「いいと、思うよ」

差別はないけど、優くんの消ゴムは恋人や彼自身渡さないのではないだろうか?
だけど、真剣なら止めるわけにもいかなかった。

 私も昔ね、鉛筆が好きだったんだ。そう、口に出来たらいいのに……
付き合えなくても、話さなくても、そばに居て、一緒になって文字を連ねている時間が好きだった。あの微かな鉛と木の混ざるにおいも好きだった。

「優君には、話してあるの?」

「ううん、まだ……きっと驚くと思うから」



消ゴムの寿命は、通常、鉛筆の倍短いことは、使う誰にでも知られている。身体をぼろぼろ崩れさせて、紙に引きずられながら小さくなっていくだろうその相手を想像する。
……幸せな恋とは思えなかった。

「優君も好きだけど、消ゴムが小さくなっていくのが見ていてつらい」

それは、物に恋をする人たちの永遠の悩みだ。


 くうちゃんは昼からの授業のとき、ついに勝負に出た。
消ゴムを忘れた、とか言ったら借してくれないかなと思ったらしい。
前の席の優君に、消ゴム貸してくれないかと聞いていた。
 私より少し大きい音で椅子がぎーっと引かれて、優君の手にある消ゴムとくうちゃんが近くなる。 
斜め後ろの席で私は、くうちゃんと、その手にいる消ゴムを見ていた。

 休憩時間になると優君は他の子と廊下に出ていった。
くうちゃんと、消ゴムを二人きりにさせたくて、私はそっとみんなに続いて教室を出る。
女子はこういう雰囲気にやたらと察しが良い。
みんなぞろぞろ揃って、くうちゃん以外の人は教室から出た。

[次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!