[携帯モード] [URL送信]

小説
Dreams go by contraries(二十+覇王+双葉)

 夢でもみているに違いない。そう十代は思った。
そうでないのだとしたら、一体このありえない状況を生みだすものはなにがあるというのだ。
「ぜってぇ可笑しいって!」
 やはり、夢だ。
「然しながら、これはオレを守る為の物だ。此れをどことも知れぬ場所に置くなどできぬ」
 十代を置き去りにし、彼ら2人は─どちらも十代の顔をしているのだが─和気あいあいと会話をしている。
 今よりも、ほんの少し幼い顔立ちで─そう見える気がするだけでほとんど己と顔は同じだ─髪質は少し柔らかいくせっ毛のようだ。まるでアカデミアに入学して間もない頃のような十代の姿。
 見慣れた赤い制服を着ていて
そいつ、過去の十代の姿とでも呼ぶべきものなのだろうか。
 その隣には─ずいぶんと防御力のありそうなヘルメット─十代にはそうとしか見えないのだが、兜を持った上から下まで黒色の服でジャケットには白いラインが入っている。
目は金色で、喋り方や雰囲気で覇王なのだとわかった。
 過去の十代に、覇王。何故当たり前のように揃ってここにいるのか。
全ては同一人物であるはずだ。言い切れないのは完全なる同一人物ではないからだが、そんなことは些細なことだ。
 過去の十代がタイムスリップでもしてきたのか?
ならば覇王はどうだ。覇王とは十代の別の人格のようなものであり、十代とは別の魂でもある。だが、十代の魂でもあるのだから
十代の目の前に現れて喋り、そこに実体があるようにしているということは不可能に近い。
 そもそも今居る場所はいったいどこなのか。
それすらも十代にはわからなかった。
ここがどこなのか今疑問に思ってはじめて、どこにいるのかわからないとわかったのだ。
「滅茶苦茶だぜ」
 夢なのだから滅茶苦茶だろうが無茶苦茶だろうが、そういうもの。なのだろうが。
「なにがだよ」
「恐らく戸惑っているのだろうな。仕方あるまい
オレがこうしているなど通常起こりうる事ではないからな」
「そうだ。まったくその通りだぜ
夢なんだよな?」
 思わず出た独り言だったのだが反応が返ってきたものだから
若干躊躇いながらも会話を続ける。
夢でなければありえないだろうと
「なるそどなぁ、夢か」
「夢であるとするなら、誰の夢だというのだ」
「は?」
 金色の目とぶつかる。
こんなに覇王の目をしっかりと見たのははじめてだ。
「オレの夢か?」
「いや、俺は……」
「もしもだぜ、もし俺の夢だったらお前達って未来の俺になんのか?
予知夢ってやつ?」
 過去の十代は楽しそうに笑っているが覇王も十代も互いに目を逸らさないままじっとみている
「は、おうは夢を」
「夢とは違うが、近いものはみる。オレは夢をみるために必要な器官を持っていない。
だからお前が扉を開けていればお前の見ている夢をみることはできるがな」
「なら」
 口を挟む余地もなく覇王は言葉を並べる。
「だがこれはお前の夢ではないだろう。
扉が開いていて、オレがここにきたのならわかるがそうではない」
「なんか難しいこと話してんな未来の俺!」
 もし十代の夢だとしたら『覇王が十代の夢にくる』にはある程度条件が揃わなくてはいけないと言う。
言外にその条件は揃っておらず、今ここに『覇王がいる』ということは不可思議なことだとも。
単に過去の十代と覇王の記憶からこの夢が生み出されているならば何もおかしくはないのだ。
十代には夢のメカニズムなどわからないが、記憶だのからこの夢に覇王がでてきているのではないのか
「夢ならば、誰の夢か。何故オレもお前も、過去のお前すら個々で此処にいるのか」
 夢でなければ。夢でないのなら。己が三人もここにいるなど。
十代はひどく狼狽した。
「なあ、ここにはハネクリボーもいないのか?」
 能天気な喋り方だ。少し前の十代のものだが。
しかし、言われてみればここにはユベルの気配もハネクリボーはおろか精霊達の気配も姿もない。
やはり夢なのか。
 ユベルと十代は超融合を経て絶対的な繋がりを得たのだ。
現実でおきていることではない。そんなことはあり得ないのだから。
そう納得しそうになって先ほどの疑問が再び十代を襲う
夢だとしたら、これは俺が見ている夢なのだろう。
だがそれは違うと、あり得ないと覇王が言う。
そして覇王の言い分は確かに事実なのだろう
何度か、覇王とは対話をはたしたこともあるし、夢という形を借りて十代の一部を共有することについても話した。
だからこそ扉─十代自身に扉を開くだの閉じるだのという概念はなかったが─それが開いていなければ覇王と十代は別たれたままで
どちらかが干渉することはできない。
 そもそも夢というものはこんなにもはっきりと意識だの思考があるものだろうか
どちらかといえば、ぼんやりと朧げでうすらとしているものだと思う。
尤も夢から覚めた後にそう思えるだけで夢を見ている最中はこんなものなのかもしれない。
支離滅裂で矛盾して、夢特有の都合のいい理屈など通らなくてもいい─そういうものだ
「お前の夢ではないだろう。夢ですらない可能性もある」
 金色が十代を射る。
不可思議な出来事には耐性がある方だと思っているし、それなりに説明し難い出来事にも遭遇してきたが
己が同じ場所に同時にいるという状況にあったことなどもちろん十代はない。
 現実に起きている出来事だとしたらユベルや精霊達はどうしたというのだろうか。
覇王が実体をもって居るという事がそもそも可笑しいのだ。
以前のように十代の精神世界内で形を得ているのとは違うのだから
さらに過去の己など、これから起こりうる様々な出来事を知らない筈だ
今の十代には未来の自分と相見えた記憶はない。ユベルのことも覇王のことも知らない。
 なにか、聞いた覚えがある程度ではあるが過去から未来への干渉や過去を変え得ることは大変なことになるという話を思い出した。
困惑と混乱、そして体の底で燻り始める恐怖
ぐらぐらと煮詰まってどろりと崩れ、溶け落ちてしまいそうだ。
 一度、冷静にならねば。
常であればユベルがこんなにも十代が頭を悩ませ煮詰まる前に何か助言なり一言告げるだけで切り替えることができていたが
ここにはユベルもいないのだ。
今、十代の中はがらんどうのようになっている。
錯覚、気のせい。気にしすぎなだけだと思い込み息を吐くと兜を腕に抱いていた覇王の腕が伸びてきた。
 俺の指は、掌はこんな体温で、触れるのか。
そうどこかぼんやりと感慨のようなものはすぐに失せた。
驚き体を強張らせる十代を余所に慈しむような手つきで覇王は頬を撫でている
「やはり、オレも肉体をもって此処に居るのだな」
「は…お前も、よくわかってないのかよ」
 覇王と呼ぶのは拙いかと過去の姿をしている十代を横目で見て慌てて言い直したが今更だとも思う
「お前とは記憶も共有できるようになっていた筈だがな。
此処に来る前の事がはっきりとしない」
「……」
 感覚を研ぎ澄ませてみたが何かしらの力の干渉も感じ取れない。
「それにしても、なんと可笑しな場所か」
 薄らと笑みを口元にすいて撫ぜることをやめた手が今度は空を舞う
「確かに変だよなぁ。だって椅子とテーブルしかないんだぜ?
カードも持ってねぇし、ここでなにすればいいんだ」
 やっぱりどこか能天気な物言いだ
確かに少し前まで陽気で、能天気ともいえるようなものの考え方をしていたが
これは楽観的過ぎやしないかと溜息を吐きたいのを飲み込み十代も辺りを見渡してみた。
地面はあるが、その上には三脚の椅子と丸いテーブルが置いてあるだけであとは自分たちが立っているだけでどこを見ても他には何も見えない。
「ここってどこなんだろうな」
 それこそ今更だが口に出さずにはいられなかった。
「閉ざされた空間のようにも感じるが、如何やら果てはないようだ」
「なんでわかるんだよ」
「こいつがオレの言葉も聞かぬうちに走り……そう経たないうちに戻ってきた」
 歯を見せてにかりと過去の己が得意げに笑う顔を見て十代は先の見えない白い地面ばかりが続く空間の先をみた
「なんかあるかなって思って行ったのに本当になんもなくてさ!こっちに戻ってこれたのもギリギリだったんだぜ」
「ふぅん、無闇に動くってのもヤバイかもな」
 どうしてと聞きたがりそうにしている目を向けられて十代はたまらなくなった。
なんというか、同じような顔ではあるが過去の自分の目は十代を居た堪れなくさせた。
「三人で行けばまた違ったりするかもしれないぜ!」
「ああ、いや……そもそも俺はここに来る前のことも、その」
 覇王が言った過去の己が突っ走たというのは何時の話なのだ?
「あー、もうなんなんだっていうんだ……」
 頭でごちゃごちゃと考える事は得意じゃあないのだ。
十代はまた煮詰まってしまいそうな頭を乱暴に掻き途方に暮れた
「どこまで行った?」
「もうそりゃあ息が上がるまでずっと前に進んでみたぜ」
「その時に、俺はいたか?三人で、ってのも変か。とにかく俺はなにをしてた?」
 おかしなことを聞いていいるとわかっていたがぐだぐだと考えているだけでいるよりはいいだろう。
「?なにいってんだ」
「俺は走っていったところを見た覚えがないんだ」
「そりゃあ、困ったな」
 どこか他人事のような言い方だ。
密閉された空間にいつの間にか運び込まれただのそういったケースならばどこかに突破口はあるだろうが
今置かれている状況もろくにわからないのでは話にならない
「お前が」
「おまえって、俺のことか?」
「ああ」
「でも俺も二人ともイチオウ未来の俺ってやつなんだよな?」
「まあ……そう思ってもいいぜ」
 話をそらされたか。
しかし気になることを問うてみても役に立ちそうなこともなさそうだ。
一度動いてみるか。
もしも、夢だとしたらなにかしらのアクションを起こすというものがきっかけになって覚めるかもしれない。
 十代はまだ夢かもしれないという考えを捨てられずにいる
「目処もなく動くのもどうかと思うけど、じっとしてるよりはマシかもしれないな」
「でもずっとおなじだぜ?」
 さっきは皆で行けば違うかもしれないと言っていたじゃないか。
「とりあえず行ってみるか?」
 腕をとられて十代は反射的に一歩後ろに引いた。
過去の十代は十代の腕を掴んだままなぜ、一緒にいかないのかと目で問うている
「……」
 腕を振り解かなくてはいけない。
直感でそう思ったが思うように力が入らなかった。
「はやく行こうぜ」
 駄目だ。そっちに俺は行っちゃ駄目なんだ。
「なあ」
 じりじりと見詰められぐらぐらと煮詰められる。
じわりと嫌な汗が背中からあふれてきた。
「あ、」
 掴まれている腕とは反対側の肩に手が置かれてそちらに顔を向けると瞳孔の開いている金色の目とぶつかった。
「は、おう……」
「貴様は」
 がしゃんと兜が落ちる音が耳に入ってきた。
覇王は十代から目線を外し腕を掴んでいるその先を睨んでいる
「真っ直ぐ」
 真っ白な地面がぐにゃぐにゃとうねりはじめてゆく
「どこまでも、ひとりで」
 腕を掴んでいた手がどろりと解けてシミをつくった




----

 落下するような錯覚を感じて意識は急速に覚醒した。
開けたばかりの瞼が僅かに痙攣している。
背中にはしっかりと硬いベッドの感触があり、朝なのか昼なのかはわからないが窓から日の光も入ってきていた。
昨夜から宿泊している部屋だと確認し漸く息を吐いて体から力を抜くことができた
 やっぱり夢だったんだ。
事細かに覚えてはいないが可笑しな夢で、たっぷりと寝汗をかいた。
服が肌に張り付いて気持ちが悪い。
シャワーを浴びてから出たいが時間に余裕があるか。
携帯端末をサイドボードからとり時刻を確認するとまだチェックアウトまで数時間余裕がある。
 体を起こしてベッドから足を下ろすとずっしりとした重さが体中に広がったような気がしてまた安堵した。
さわさわと撫ぜるささやかな重量のあるものたちが確かに十代の中や周りにいる。
すっかり安心できた。小さく頷き大きな欠伸をしながらシャワールームへと向かう。
さっさと汗を流して外に出てしまおう。
白い地面はしばらく見たくない。


END
------

さかさゆめ。

[*前へ][次へ#]

62/71ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!