相互記念(清明sama)
「頭!島が見えました!」
「ん、わかった」
勢いよくドアを開けて入ってきた部下に頷いて、次の島の存在を確かめるために甲板へ出ようと立ち上がる。
別に頼んだわけじゃないが、部下がドアを開けてくれ、外に出れば冷たい風が頬を撫でる。やはり予想通り、次は冬島のようだ。
そこで部下の様子がおかしいことに気がつく。何かあったのかと問えば、
「あの、港に見覚えのある船があって‥‥」
「海賊か?」
「ええ、それが‥‥
「‥‥何やってんだよ」
「あ、ユースタス屋。楽しいぞ、雪遊び」
「いくつだお前」
喜々とした表情で身長ほどもある巨大雪だるまの形を整えながら、しばらく振りに出会ったトラファルガーは会話を続けた。
故郷の雪を、それで遊んだ子供時代を思い出すのだろうか。何にせよ、普段からは想像もつかないようなその様子にただただ驚く。
「ユースタス屋は雪合戦の方が合ってるな」
「雪なんか触りたくねェよ」
「何で、楽しいのに」
そりゃ当然、幼い頃から寒さに慣れてきた人間なら雪も楽しいだろう、だが生憎こちらは常夏育ちである。
寒さも苦手なら雪遊びなんて、そんな自ら手を虐めるようなことはしたくない。あと、もう10代もとっくに過ぎた今、ちょっと雪だるまは作れない。
「‥‥ねえキャプテン、そろそろ良い?お腹空いちゃった」
「うわっ?!」
「了解、戻って良いぞベポ。オレはもう少しここにいるから」
アイアイ、とにこやかに返事をして、白クマは去って行った。
「‥‥引っ掛かったな」
「まさか部下使って遊んでるなんて思わないだろ」
クスクス笑われてつい、かっとなる。しかし目の前のこいつには凄んだところで効くはずもなく、がしがしと頭を掻きながら溜め息。
「まったくテメェは‥‥って、トラファルガー?」
どさり。
何かが倒れる音がして、振り返って見れば雪の上に大の字で寝転ぶ彼が。一体どこまで人を呆れさせれば気が済むのだろうか。
しかも、こっちへ来いとでも言いたげにこちらに腕を伸ばしてきやがった。オレは慌てて首を振り、その誘いを断ち切ろうと。
「‥‥ユースタス屋」
「嫌だ」
「なあ、ユースタス屋」
「早く立てよ、風邪引くぞ」
断固として拒否の姿勢を貫くオレにトラファルガーがしばし考え込む。そして何か思い付いたのか、何とも胡散臭い笑みを浮かべてこちらを見た。
「タダでとは言わないから」
「‥‥へえ、何かくれんのか」
「一発ヤらせてやる」
「もっと包み隠せアホ」
「嫌か?」
「‥‥‥‥」
「キッド」
そう言って、笑った。
その緩く弧を描いた唇に、心の奥底までも見透かすような視線に、未だオレを欲している白く綺麗な腕に、その男に引き寄せられるようにして倒れ込む。
ああ冷たい。
けれどオレの下敷きになっているローの体温は確かな安心を含んでいて、もしかしたらこのまま眠れるかもしれない、なんて考えたその瞬間、視界が逆転した。
「っ冷てェ!」
「当たり前だ、雪だからな」
「そうじゃないだろ!退け!」
腹に馬乗りになったローが楽しそうに笑う。それは最初に見たものと同じで心臓が動きを早めたが、それより強烈な背中の冷たさで止まってしまいそうだった。
こちらが文句を飛ばそうと開いた口から、白い息。その全てを飲み込むかのように口付けられた。
初めは触れるだけ、じわりと上唇を舐められる。
寒さか興奮かわからないものに身震いしていると、ローの顔がオレの胸に押し付けられ、ほぼ無意識に頭を撫でた。小さく身を捩って発せられた言葉。
「ニワトリ」
「‥‥あァ?」
「赤と白で、ニワトリみたい」
きっと、オレの髪と雪のことだろう。何が嬉しいのかわからないが笑っているローは綺麗だ、そう素直に思った。
「めでたい色だろ」
「ああ、愛でたいな」
「‥‥勝手に言ってろ」
照れるなよ、などと戯れついてくるその背中を撫でながら、オレもつられて笑って。
「さて、そろそろ戻るか」
「うちの船寄ってけよ」
「本音言えばさっさと帰って温まりたいんだが」
「霜焼けを急に温めたら皮膚が裂けて酷いことになるぞ」
想像して黙ったオレに、先にローが立ち上がって手を差し出す。それを掴んで起き上がると、体から雪がはらはら、落ちていった。
「‥‥雪合戦、か」
「何か言ったか?」
「次に冬島で会ったら、付き合ってやっても良いぜ。雪合戦」
オレの手を引くローが嬉しそうに笑うから、背中のじりじりとした痛痒さも忘れ、オレも笑った。
ゆびきりげんまん
(次会うまでの楽しみと)
(永遠の愛を約束しよう)
+−+−
俺の嫁こと清明さまに捧げるキドロでございます^^*
私なんかのキドロで満足してもらえるのか不安でならない‥(震)
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