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何で自分なのでしょうか





早く帰らなきゃ、と気持ちばかりが焦る。

今すぐにでも帰って、一刻も早く真実を聞かせてほしい。



なあ、あんなの嘘だよな?

















カチャン。やっと閉められるようになった鍵を開けて、中に入る。もしかしたらもう阿部はいないんじゃないかって不安と、昼間の話は全部嘘で、いつもと変わらない阿部が出迎えてくれるんじゃないかって期待が五分五分。



「‥‥ただいま」
「おかえり、花井」


良かった、いた。なんて1人ホッとする。やっぱりあれは嘘だったんだと嬉しい反面、では何故昨日あんなところにいたのかという疑問が沸いて来て。



「‥‥阿部」
「なに?」
「昨日、どこ行ってた?」


その質問に、オレの上着をハンガーに掛けていた手が止まる。聞くなと言った栄口の台詞を思い出すけど、ぱっと俯かれたことで消えた筈の不安が押し寄せて来て。


「おい、阿部!」


ぐっと顎を掴んで無理矢理こちらに向かせると、阿部は何とも言えない、物悲しい表情を浮かべていた。オレは哀しいのか怒りか、もしくは嫉妬なのかわからない感情に襲われる。


「何か‥なんか言えよ‥」
「‥‥‥‥」


一向に目を合わせようとしない阿部を放し、今日榛名さんに会ったよ、と吐き捨てるように言う。すると阿部は慌て出したから、更に苛立ち。





「な、なんでアイツと」
「阿部がオレの番号、教えたんだろ。電話きたんだよ」
「オレが‥?ちが、そんなこ「良いよ、もう」


弁解しようと必死な阿部を止めた声は、自分でもビックリするくらい冷たかった。不意に見た阿部の目からは涙が溢れ出していて、後悔の念ばかりが頭を回る。
それでも、この醜い感情は止まらなくて。





「榛名さんと、より戻すんだってな」
「‥花井‥‥」
「昨日も2人で会ってたって」
「‥‥はな、い‥」
「オレはもう用済みなんだろ」



さっさとアイツのとこ、行けよ。



そう、言った。阿部の顔は見れなかった。啜り泣く声と涙を拭う音だけ聞いて、少し胸が痛かったけどオレだってもう引けなかった。







「‥花井なんか、嫌いだ‥」



そう呟かれた時、オレの心は奇妙なほど落ち着いていて、それでいて何かを起こす気にもなれなかった。





















ばたん、と阿部が出て行った後のドアをぼんやりと見つめる。

これで良かったのかと、自分に問いただしたって答えは見つからなくて。


嫌いだ、そう言った阿部の震える声だけが、耳に残っていた。




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