新・バカ達とちみっこ達と赤姫 第36問 祭りだ祭りだぁ、わっしょいわっしょい☆ 「あ、坂本くん。待って!」 「あ?」 帰り支度をしている雄二につぐみが龍星と綾香と共に近寄る。 振り向いて不思議そうにこちらを見た。 「実は雄二に頼みがあってな」 「なんとか坂本くんに指揮をとってもらえないかな?」 「めんどくさいとかそういうのは却下な☆」 三人とも雄二をまっすぐ見つめており、龍星と綾香は雄二の肩を掴んでいた。 「わ、わかったから肩から手を離せ!」 「ほーい」 「ここじゃ、なんだからこっちの空き教室で話すか」 「二人とも、手荒すぎだよ(汗」 慌てる雄二を引きずるように連れて行く龍星と楽しげに向かう綾香に苦笑しながらついていくつぐみ。 空き教室に入るとそこにはひばり・結華・明久・和明・瑠美・直貴・秀久・奏・湊斗・当夜がいた。 「で、話とは?」 「うん、実はみーちゃんが転校してしまうかもしれないの」 雄二が問いかけると、しょんぼりしたつぐみは説明しはじめた。 これに驚いたのは和明・結華・明久・直貴・秀久・当夜達の6人だった。 「転校だと? それは本当なのか」 「ああ、最初につぐみと瑠美の方に電話が来てな。 俺も後から教えてもらったんだ」 龍星は雄二の問いに頷いて答える。 「ちなみにあたしもひばり達もな」 綾香が雄二を見つめて真剣な顔で告げる。 「まあ、転校を薦めているのはおじさんの方なんだけどね?」 「瑞穂さんにも電話をかけて聞いたしな」 と、つぐみと龍星が苦笑しながら言った。 ひばり達は悲しそうに顔を伏せてうつむいていた。 「……そうか。恐らく姫路の転校の理由は三つだな」 顎に手を当てて思案していた雄二が顔をあげる。 「この学習環境だろ? ちゃぶ台に畳なんて、そんなにねーだろうに」 秀久が壁によりかかりながら雄二を見た。 「ああ、そうだ。まあ、これは売り上げ次第ではイスと机に出来るかもしれん。で、ふたつめは……」 頷いて次の原因をあげようとする雄二だが。 「この教室だろ? 戦争の後に改修したとはいえ、完全にというわけじゃねーからな」 結華は溜息をもらしながら告げる。 「こっちは売上程度じゃどうにもならんからな」 「教室の設備予算から削ってもまだ余裕はあるけど。このままだと、こっちも落とされかねないからね」 雄二は結華の言葉に同意して頷くとひばりが苦笑しながら告げる。 「だから、学校側の協力が必須だな。んで次は三つ目だな」 「学習意欲の低いクラスメイトだろ? いくら、西崎さんや音吹さんがいても・・・・二人だけじゃあ・・・なぁ」 頷く雄二を見て和明がひばりの頭を撫でながら言った。 ひばりがじと目で和明を見上げていたが、本人は気にしていなかった。 「まああれだよな。一つ目は売り上げ次第だからまだ何とかなるけど、二つ目は難しいしな」 と、直貴が顎に手を当てて言うと。 「あれ、三つ目はよろしいんですか?」 「それはもう対策してんだろうからな」 奏の問いに雄二は視線をつぐみに向けた。 「うん、美波ちゃんと瑞希ちゃんと綾香ちゃんが組んで召喚大会に出るって聞いてるよ」 視線に気づいたつぐみは頷いて答えた。 「インパクトはそんなに高くないけど、これならうまいこといくだろ?」 「まあ、そうだね。二人に迷惑はかけないようにね」 笑う綾香に湊斗が苦笑しながら近寄る。 「なら、俺と雄二と龍星さんで参加してみないか?」 「珍しいな、秀久がそう言うなんて」 「まったくだな」 秀久の提案に驚いてる雄二と龍星。 彼がこういうのは苦手だと知っているからだろうか。 「じゃあ、参加登録してきてやるよ☆ いくぞ、ミナ♪」 「ちょ、綾香!?うわあああああ!!?」 綾香に腕を掴まれて連れていかれる湊斗の声が木霊していた。 「当夜は・・・・」 「遠慮する、そういうのに興味ないしな」 明久が当夜に問いかけると彼は即答していた。 しょんぼりする明久にほっと安堵する結華だった。 「さて、どうせ雄二達は、学園長室に行くんだろ? なら、先に行っといてくれや。俺は切り札をつれてくるから」 そう龍星が言うとそのまま空き教室から出て行った。 「んじゃ、いくか」 「そうだな」 秀久と雄二は頷いて同じように教室から出ていく。 あの組み合わせにつぐみとひばりは不安を思ったのか、慌てて追いかけた。 和明と瑠美と直貴も慌ててその後を追いかけるのであった。 ****** 暫くして立派な両開きの扉が見えてきた。 その扉の前で立ち止まるひばり達。 『……賞品の……として隠し……』 『……こそ……勝手に……如月ハイランドに……』 言い争うような声がひばりとつぐみの耳に届いた。 困惑して顔を見合わせる二人に瑠美がカメラで写真を撮っていたのはおいておこう。 「学園長は在室中というわけか。無駄足にならなくてなによりだ」 扉にノックをして返事を待つことなく開け放つ雄二。 それに続いて便乗する瑠美と直貴と和明。 「「「「失礼しまーす!」」」」 「「ちょっとぉーーっ?!」 止める間もなかったひばりとつぐみは、大慌てである。 「やれやれ、ほんとに失礼なガキどもだね。 ノックをしたら、返事を待つのが礼儀ってもんだよ」 不機嫌そうに言い放つのは、文月学園の学園長、藤堂カヲル。 試験召喚システムを作り上げ、この文月学園を立ち上げた女傑だ。 『いいじゃないですか〜☆ この方が私的におもしろ・・・げふんげふん・・・盛り上がりそうですし〜♪』 「糞杖はだまってな!」 けらけらと笑う宙へ浮く杖を見てつぐみとひばりは目を丸くして硬直していた。 そんな彼らを、学園長と話していたとおぼしき男が一瞥する。 「やれやれ。取り込み中だというのに、とんだ来客ですね? 学園長」 眼鏡を軽くいじり、学園長を睨みつけた。 「これでは話を続けることも出来ません。 ……まさか、貴女かその杖の差し金ですか?」 鋭い視線に疑念を乗せる男。 この声に硬直していたひばりとつぐみは我に返ると。 「「た、竹原教頭先生、お話中にすみませんっ!」」 慌てて頭を下げるちみっこツインズ達。 これに一瞥しただけで視線を学園長に戻した。 『えー、ルビーちゃんは知りませんよ〜☆ というか、これで怒るなんてカルシウムが足りないんじゃないですか〜?』 「なんだと!」 ルビーという杖の言葉にいきり立つ竹原教頭。 完全に振り回されている。 「馬鹿を言わないでおくれ。 そこの杖はともかく、どうしてこのアタシがそんなセコい手を使わなきゃいけないのさ。 アホくさい」 「貴女は隠し事が得意なようですしね」 学園長は、教頭の言葉にため息をつく。 「……さっきから言っているように隠し事なんざありゃしないよ。まったく」 「この場はそういうことにしておきましょうか」 あくまで疑いを捨てる気のない教頭に、学園長がまたしても息を吐く。 「あー、気持ちわるいのみたから、つぐみちゃんとひばりちゃんを愛でないと!」 「「ちょっとお!?」」 突然、抱きしめられて慌てるひばりとつぐみ。 頭をかかえる学園長と直貴。 雄二と秀久と和明は苦笑を浮かべてみていた。 「今回はこの辺にしておきましょう学園長。この件に関しては、後日改めて話すとしましょうか」 そんな中で竹原教頭は動いて、そのまま振り返りもせずに戸口へ向かい、出ていった。 「「もー、瑠美ちゃん!?」」 「そんなに嫌?」 しょんぼりする彼女を見てなにも言えなくなるひばりとつぐみ。 「で。お前さん達の用件はなんだい? こっちは、忙しい身の上なんだ。早く言いな」 そこへ学園長が話しかけてきた。 「失礼しました、二年Fクラス代表の坂本雄二です」 「おなじく、二年Fクラスの雨宮つぐみです」 「同じく、二年Fクラスの支倉ひばりです」 背をのばして礼儀正しくお辞儀をする三人。 「そして、こっちが二年を代表する不憫とバカと優等生が二名です」 「優等生の方は知ってるけど、ふむ・・・・あんたらがねえ」 雄二は和明と秀久達を紹介すると顎に手を当てる学園長。 その紹介に不満を持った秀久と和明が動こうとしていると。 「ま、いいよ。話を聞いてやろう」 口の端を上げながらそう言ってくる学園長。 対して雄二が軽く会釈する。 「ありがとうございます」 「礼なんざ言ってる暇があるんならとっとと話な、トウヘンボク」 だが、学園長の罵倒は止まらない。 しかし雄二は動じた風もなく顔を上げた。 「わかりました。用件はFクラスの衛生環境改善の陳情です」 「ほぉ、そいつは暇そうで良いねえ」 「……現在のFクラスの教室は、 まるであなたの脳味噌のように隙間だらけで風が吹き込んでくるようなひどい状態です。 畳も腐っており、衛生状態は最悪。 このままではこのバカみたいに頑丈な生徒はともかく、体の弱い生徒は倒れかねません。 よって教室の衛生環境をとっとと改善しやがれクソババアってわけです」 かなりの罵倒がまじっており、おろおろするひばりとつぐみがいた。 「その証拠がこれです」 そう言って和明が写真を見せた。 途端顔をしかめる学園長に全員が注目する。 『ありゃりゃ、これは勉強できる環境ではないですね〜☆』 「あんたは黙ってな」 覗き込む杖に学園長が突っぱねる。 と、ここで来訪者の呼び鈴がなるのだった。 |