[携帯モード] [URL送信]

帽子屋の狂い言
タノシイチャカイ

 『帽子屋の家』の門扉の前に立って一呼吸おく。

「行くわよ、ネムリウサギ!」

 アリスは門を押し開けた。

 今まで歩いて来た薄暗い森とは違い、広く開けた庭が広がる。

 そこには大きなテーブルがあり、真っ白なクロスが風にたなびいていた。その上にはなにも置かれていないのに、クロスは飛ばされることなくそこにある。

 アリスはそのテーブルにそっと触れ、目の前の扉を目指した。

 コンコン、とノックをする。しかし、中から音は何もしない。

 アリスが静かに取っ手を押すと、扉はすっと開いた。

「ネムリウサギー、来たわよー」
 アリスは声を掛けながら、家の中へ入った。

 今まで歩いてきた庭と似たような、広く開けた庭が広がる。

 そこには大きなテーブルがあり、真っ白なクロスが風にたなびいていた。その上にはなにも置かれていないのに、クロスは飛ばされることなくそこにある。

 アリスはそのテーブルにそっと触れ、目の前の扉を目指した。

 コンコン、とノックをする。誰も何も言わない。

 アリスが静かに取っ手を押すと、扉はすっと開いた。

「帽子屋さんー、はじめましてー」

 アリスは声を掛けながら、家の中へ入った。

 今まで歩いてきた庭と似たような、広く開けた庭が広がる。

 そこには大きなテーブルがあり、真っ白なクロスが風にたなびいていた。その上にはなにも置かれていないのに、クロスは飛ばされることなくそこにある。

 アリスはそのテーブルにそっと触れ、目の前の扉を目指した。

 コンコン、とノックをする。人の生活している音がしない。

 アリスが静かに取っ手を押すと、扉はすっと開いた。

「・・・・・・・・・・・・」

 アリスは、中へ入ろうとするその足を止めた。

(おかしいわ・・・・・・)

 家の扉を開けたら庭が広がっている。なのに今手にしているノブは、庭の手前にあるはずの門扉のそれだった。

 ならば、庭の向こうには何がある? 今開いているはずの帽子屋の家。

(あたし、同じこと繰り返してない?) 

 閉じた扉はどこに通じている? アリスはどこに向かえばいい?

「後ろねっ!」

 アリスは持ったままの扉を突っぱねて、四度目の庭の上を駆け、背後にある門扉を思いきり開いた。しかし、その勢いは直ぐさま削がれることになる。

「むぎゃっ!」

 アリスは人に踏まれた蛙のような声を聞いた。はたして蛙が本当にこのような声を出すかは疑問ではあるが。

 開け放った扉が勢いを殺して手前に返って来たので、アリスは恐る恐る扉の向こうを覗き見た。

 その瞬間、アリスの頭にチョップが繰り出される。

「いまどきの子は怖いなぁ、挨拶がてらまずドアをぶつけるの? わたしは結局毎回チョップで挨拶しなきゃなんないの?」

「ごめんなさい、ちょっと焦ってて・・・・・・」

 アリスが頭をさすりながら人物を見た。そして叫ぶ。

「あなた、ネムリウサギ!」

 『ネムリウサギ』はばつの悪そうな顔をしながら、アリスに「道に迷わなかった?」と尋ねた。

 アリスはニコリと微笑んで、「大丈夫よ、双子が案内してくれたの」と答えた。

 へぇ、と『ネムリウサギ』は驚き顔を作った。

「それより、あたしはここに来たわよ。ここが『帽子屋の家』でいいのよね」

「あってるよ。あ、家で迷わなかった?」

 『ネムリウサギ』の問いに、アリスは膨れっ面をする。

「そうよ、どうなってるのよ。せっかく来たのに誰もいないし、入ったら入ったでなんども庭を往復させられるし! あたしは帽子屋の『家』に招待されたつもりで『庭』に招待されたつもりはなかったのだけれど」

「ごめん、ごめん。この家は少々特殊なんだ。家の住人には『鍵』があってね、それがないと家の中には入れない。招待したヒトも入れるけれど、『鍵』の持ち主と一緒にいないと迷ってしまうことを失念してた」

 頭を掻きながらにこやかに謝る『ネムリウサギ』。

 アリスはため息をつきながら、「あたしこそ、勝手に入り込んでしまったわ、ごめんなさい」と謝った。

「そんなことに謝る少女も珍しいですね」

 アリスのすぐ隣で声がした。

 見ると、大きな机にかかった真っ白なクロスの上にたくさんの物が置いてあり、さっきまで無かった椅子に、一人の男性が座っていた。

 藍色のハットを頭に被り、同色のスーツの袖から見える手は、驚くほどに白い。

 お菓子からティーセットまで揃っているテーブルに手をついて、優雅に紅茶を飲む姿は麗しいの一言につきる。

「帽子屋ー、先に茶会始めるとネズミが怒るよ」

 『ネムリウサギ』が呆れ顔で言うと、帽子屋と呼ばれた男はふむぅと唸った。

「何をもって茶会の始まりというか、難しいね。ヒトが集まって茶を啜ることを『茶会』というのであれば、私が今している一人で茶を啜る行為は単なる『茶飲み』であり、私はまだ『茶会』をしてはいない」

「もういいよ、何も言わない」

 『ネムリウサギ』はため息交じりに言った。

 それを合図に、家の扉から少年が焼きたてクッキーを運びながら出て来た。茶色のエプロンに身を包み、ミトンで器用に熱々のクッキーの入れ物を持っている。

「あぁー!!!! オレが来る前に茶会始めやがったな。せっかく美味いクッキーが焼けたってのに!!!! 帽子屋ぁ、てめーには絶対食わせねー」

 クルンクルンとした茶色の髪が元気良く跳ねる。その中に見える丸い耳らしいものが、彼をネズミだと教えていた。背格好はアリスより小さく、少年という言葉が相応しい元気さだった。

「帽子屋曰く『茶会はまだ始めてない』って! ぶつぶつ言ってないで早くおいでー」

 『ネムリウサギ』の呼び掛けに、ネズミは目を半分にしながらテーブルに近づく。そして、焼きたて熱々クッキーをその上においた。

 アリスは言葉も出さずにそれらを見守っていた。

(一体何なの、これは・・・・・・)

 それは、楽しいティーパーティーの幕開けだった。



[←][→]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!