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帽子屋の狂い言
蝶の戯れ
 白薔薇の城では、『女王』の気まぐれで時々社交界が開かれる。

 普段は質素なこの世界のヒトビトも、今日ばかりはきらびやかな衣装を纏って、ダンスや語らいに明け暮れる。

 あたしゃこんなの本当は好きではないんだけどね。でも、綺麗なものは好きだから、結局ここに来てしまう。

 まあ、どっちにしろ招待状が来たら参加しないと、『女王』に首を刈られちゃうんだけどさ、例外を除いて。

 ふと、あたしの目の前に鮮やかなドレスを身に纏った少女が現れた。

 その堂々としたドレスに見合う顔立ちだというのに、眉はだらし無く八の字に下がり、目線を泳がせている彼女。あたしゃ投げやりな態度で言った。

「ご機嫌よう、芋虫。あんさんも一丁前に花になれるじゃない」

「ね、姉さんも・・・・・・ご機嫌よう・・・・・・とっても綺麗」

「そりゃどうも。綺麗なものは好きだからね。あそこにいる三月ウサギも、化けたものじゃないのさ」

「三月さんは・・・・・・元が綺麗だから」

「でも結局白兎に絡まれてバッサバサのボッサボサ。眠りネズミの坊やも、蝶ネクタイ似合っているのにカチコチさ」

「昨日から・・・・・・ちょっと気合い入れてたって・・・・・・アリスちゃんが言ってた」

「で、そのお嬢ちゃんはお出ででないのさ?」

「うん・・・・・・招待状が来なかったんだって。いつも通り、帽子屋さんと帽子屋さん邸にいるみたい・・・・・・チェシャさんも来てないかな」

「まあ、あの2人はいつものことさね。首を刈ろうにもまず刈りに行けない、刈りに行こうなら逃げられる、『例外』さね」

「?」

 あたしゃ芋虫に興味を失って、にっこり笑って「ご機嫌よう」と言った。

 芋虫は、即座にあたしの意図を理解して、視線を下に向けながら小さくご機嫌よう、と言って踵を返す。

 あんさんのその洞察力を、あたしゃかってるんだけどねぇ。もたもたしてるからそれ以上にいらつくんさね。

 にしても。

 まだ『女王』がアリスを受け入れていないとは。互いにまだ接点を持っていないようだけれど、強欲な『女王』が、『異世界のお嬢ちゃん』に興味がないはずがない。

「ふぅん」

 これだからヒトはおもしろいさね。この世界の住人は飽きないさね。

 あたしの口が、笑顔に歪んだ。それを隠すように、手にしたグラスを唇に預け、傾ける。

 これからもここから、彼等を見守れる幸せに、乾杯。




End.


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あきゅろす。
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