短編 歪んだ境界線(愛と憎、そして紅・続) 絢。 絢。 絢。 何度も呼んでも返事を返さない幼なじみ。絢の右手首からは血がとめどなく流れる。絢の肌からは赤みがなくなり、体がズシっと重くなる。 「───っ…、」 リアルに“死”を感じた。 嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。 絢が死ぬ。俺のせいで。 そうだ。全部俺のせいだ。絢をこんなにしたのは俺のせいだ。 絢が好きすぎて、本当にどうしようもないほど好きで。それは狂愛といってもいいくらいだった。他の女を抱いても駄目だった。イク時に頭に浮かんだのは他でもない絢の姿だった。 俺はある日、その狂愛を絢本人に向けてしまった。 絢を、無理矢理抱いた。 絢は暴れた。そんなアイツを俺は殴り静かにさせてレイプまがいに抱いた。静かになった絢。その目には絶望と憤怒が浮かんでいた。その時、俺の背筋がゾクっと震えた。今この瞬間、絢は俺だけを見て俺だけを考えている。そう考えたら胸がドス黒く染まった。 それから俺は絢を無理矢理抱き続けた。絢を抱いていると、とにかく朔が自分のものになる気がして。その内、絢を学校で虐めるようになった。俺の「アイツ、むかつく」という一言で、クラスの連中は絢を虐めるようになった。存在を無視し、罵声を浴びせたり。クラスの皆に虐められる絢を見てると、絢を抱いたあの快楽を感じた。 あぁ。コイツを支配してる、て…。 そうして俺は絢を肉体的にも精神的にも虐めた。 『───…手首を剃刀で切ったようです。普通、剃刀で手首を切った場合致死量までいかないのですが…。それが傷が非常に深くて。よく剃刀であんな深く切れたものです。発見が遅かったら危なかったでしょう』 それが、まさかこんなことになるなんて、思わなかった。 医者が言うには、絢は剃刀で手首を骨が見えるほど切ったらしい。そのせいで大量の血が流れ、もう少しで死ぬ寸前だったのだ。 あいつに親はいない。昔事故で死んだ。そんな絢を育てる兄、秦は医者の言葉と、絢が自殺しようとしたことに泣き崩れた。俺はそんな秦兄の姿を見ながら、ひたすら心の中で秦兄に謝った。 絢を自殺まで追い込んだのは俺なんだ、と。 血まみれの絢を発見した時、頭が真っ白になった。 絢がいなくなる。絢がこの世から消えてしまう。 あいつの笑顔を見れなくなったのは何時からだ?わからない。俺は、あいつの悲しむ顔しかわからない。わからなくなった。 …絢。 絢。 絢ッ。 お願い。お願いだから目を開けて。生きて。死なないで。お前と普通に話しをしたいんだ。笑い合いたいんだ。お前に、ちゃんとこの気持ちを言いたいんだよ。 なぁ、絢。 ごめん。ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん、ごめんなさい。 「っ、ぅ…くっ…、絢、絢ぁ」 涙が顔を濡らす。視界がぼやけて、眠る絢の顔が見れない。 嗚咽が止まらない。今の俺の顔はグシャグシャだ。 絢の手を取り力強く握りしめる。 あったけぇ。 「っ、」 生きてる。絢が、生きてる。絢が、この世界にいるんだ。生きてるんだ。 更に涙が溢れてしまう。 「…、っ。ごめん、ごめんなさいっ。、ごめ…っ」 俺が全て悪いんだ。俺がお前を汚したんだ。綺麗だったお前を、純粋なお前を。 俺は汚した。 「───…、…」 「っ!」 絢の声が聞こえた。俺は顔を勢いよく上げた。 「───っ!」 俺と絢の目が合った。 絢の口がゆっくりと動く。 ────“蓮” 「───、…っ」 涙腺が決壊した。目の前がぼやけて何も見えない。絢、お前の顔見てーのに見れねーよ。口の中がしょっぺぇ。 ありがとう、ありがとうありがとうありがとうありがとう。 生きてくれて、ありがとう。 「っ、あ…やぁ、…ぅっ…絢、絢、絢っ…絢ぁーっ」 俺は、大声を上げて泣いた。 まるで小学生のように泣き崩れる俺の手を、絢は弱々しく握り返してくれた。 そんな絢の口元には、苦笑が浮かんでいた。 「ほ、んと……お前、って、馬鹿、だよね」 絢の言葉に、俺は更に泣いたんだ。 歪んだ境界線 (好きなんだ。愛してるんだ) . [*前へ][次へ#] [戻る] |