短編 愛と憎悪、そして紅 全てが紅に染まる。 紅。 紅。 紅。 それはとても鮮やかだ。 どんな絵の具でも、こんな見事な色は出ないだろうな。 あぁ、それにしても泣き叫びたくなるほど痛いな。 仕方ないか。 なんせ、この紅は今自分の手首から流れる血なのだから。 大量に血を失うせいか、眠気から目を閉じた。 これで全て終わる。 そう終わるのだ。 あんな地獄のような日々から解放されるのだ。 さようなら。 さようなら。 楽になれて嬉しいよ。 でもなんだろ。 彼の姿が脳裏を何度もよぎる。 死ぬ時まで彼の姿を見るなんて。 あーあ。 最悪だよ、まったく。 「───………!!」 自分の名を呼ぶ声がする。 誰だろうか。 残された僅かな力で目をうっすらと開けた。 何で? 何でお前がいるの。 アタシを汚し罵り虐めたお前が何で。 その顔は何だよ。 女子から人気のカッコイイ顔の欠片もない。 涙に顔中が濡れて、表情はくしゃくしゃに歪んでるじゃないか。 まるで幼い子供のようだ。 はは。 面白い。 お前のそんな顔、初めて見たよ。 そんな酷い顔、するんだな。 「…、…!…っ……!」 アイツが泣きながら何度も何度もアタシの名を呼ぶ。 壊れたラジカセのように何度も何度も、アタシの肩に顔を埋めながら。 その顔にはひどい焦り、そして声音には悲痛。 アイツがアタシの身体を抱きしめた。 苦しいっつの、馬鹿。 それに痛ぇよ。 離せ、カス。 耳元でアイツの泣き叫ぶ声が嫌が応にも聞こえる。 とても激しい嗚咽だ。 だから五月蝿いんだよ。 子供も真っ青な泣き方だよ、お前。 ねぇ、悲しい? だったらいい気味だ。 蓮、これはアタシがお前に与える罰だ。 お前はアタシを汚し罵り組み強いて、アタシの平和で穏やかだった世界を壊したんだ。 お前はアタシの日常を地獄へと変えたんだ。 お前を愛してたよ、蓮。 それが友情か異性に抱く愛情かはわからないけど、アタシは確かにお前を愛してたんだ。 なのにお前はそんなアタシの気持ちを踏みにじって汚した。 アタシは今から死ぬ。 アタシの死がお前に罰を与えるだろうね。 お前は十字架を一生背負うんだ。 本当、いい気味だよ。 蓮。 あぁ、蓮。 こんな気持ち、気付かなければよかったよ。 お前が愛しいんだ。 同時に殺したいくらい憎いんだよ。 「…!!…っ、!……!」 泣き叫びながら、お前がアタシの名を呼ぶ。 あぁ、目を開けたい。 でも開かない。 力が出ないんだよ。 お前の歪んだその顔を目に焼き付けたかった。 蓮。 蓮。 蓮。 これは罰だ。 これは十字架だ。 これを浄化出来る術はお前にはないんだ。 あぁ、蓮。 お前が愛しくて、そして憎いよ。 「───…絢、絢、。っ、絢ぁ…っ、絢ぁぁぁぁっ」 最期に。 お前の顔が見たかったよ、蓮。 あぁ、アタシが紅に呑まれていく。 初めて気付いたよ。 世界って。 こんなに紅いんだね。 愛と憎、そして紅 (紅に溺れる) . [*前へ][次へ#] [戻る] |