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EVA
アイドル事情*新劇53 A


目を開ければ、見知らぬ天井が視界に広がった。そして、どうやら僕は布団の中で寝ていたようだ。
起き上がり、外を見ると、あれからいつまで眠っていたのだろう。空はもう夕日がキラキラと輝いていた。

「ここ、は?」

「あ、起きましたか?」

ギシッと床が古びた音を立てた。横を見れば、先程の少年がいる。そして、その傍らにはおぼんが置いてあった。

「えっと、おにぎり…作ったんですけど。食べますか?」

おぼんの上のおにぎりの乗った皿を取り、僕に差し出す少年は少々遠慮がちにそう言った。
僕は軽く首を縦に振り、皿の上のおにぎりを手に取り、口に運んだ。久々に食べたおにぎりの味に懐かしさと安心が生まれる。

「口に…合いますか?」

「美味しいよ。ありがとう…えっと」

「碇、シンジです」

僕の美味しいという言葉に安堵の息を漏らしながら、名乗る彼---碇シンジくんにニコリと笑顔を向けた。

***

「えっと…すいません、あなたって…」

おにぎりを食べ終わった頃、碇シンジくんが少々そわそわしながら僕に話しかけた。

「アダムスさん…ですよ、ね?」

僕は彼の言葉に軽く頷いた。大体、予想はついていた。何せ、今は帽子も被っていないし、眼鏡もマスクもない。バレない方がおかしい。

「やっぱり…。すいません、勝手にこんな所に連れてきてしまって」

本当は助けるだけのつもりで…---と、少々申し訳なさそうな顔を浮かべ、僕を見た。
僕はそんな彼を気にしながらもぐるりと室内の周りに目をやる。
どうやら、アパートのようだ。少し古めな気はするが、全体的に木で造られたそれは今時の家やマンションとは違う温かさを感じる。

「構わないよ。むしろこちらこそ、申し訳ないよ」

そう言いながら、彼に視線を戻すとブンブンと勢いよく首を振る。

「いえ!アダムスさんは悪くありません。僕のせいで…」

「…カヲル」

「え…?」

「渚カヲル…それが僕の本名だ。年も同じくらいだろうし、タメ口でいいよ」
きょとん、と口を薄く開きつつこちらを見る碇シンジくんに僕は微笑んだ。せっかく、何かの縁でかこうして知り合えたのだ。少しは親密になりたい。

「ダメ…かな?」

「あ、え…いいですよ!なんか緊張する、けど…」

「フフ…緊張する必要はないよ。今の僕はただの高校生なんだから」

「は、はい…じゃなくて、うん。カヲルくん」

タメ口にすぐ慣れる訳ではないようで、時々敬語が混ざりながらも話す。なんだか、とても…気持ちが温かくなる。

「そうだ。僕は君のことどう呼べばいいかな?」

「碇でもシンジでもいいけど…」

「…じゃあ、シンジくんにするよ。いいかな?シンジくん」

「もちろん」

にっこりと微笑む彼の頬は無意識にかうっすらと赤く染まっていた。


***


「って、前に僕の友達がカヲルくんの話をしてて…---」

「そんなこと言ってくれたのかい?なんだか、照れ臭いな」

「僕もそう思うよ!…あ」

ほのぼのとした空気の中、二人で話しているとシンジくんがふいに時計を見て、声を漏らした。

「…どうかしたかい?」

「もうそろそろ、兄さんと弟が帰ってくる」

「ああ…さっき話してくれた?」

「うん」

先ほどの会話で兄弟の話が出た際、シンジくんは自分には兄と弟が一人ずついる、と語ったのだ。
かくいう僕もシンジくんと同じように兄と弟が一人ずついる。だが現在は、僕が一人で都心に住んでいて、二人は実家に住んでいるので最近は会っていないが。「じゃあ、僕はおいとまするよ」

「え、いてもいいよ!暗くて道分からないだろうし…それに、また追いかけられたり」

「大丈夫。なんとかなるから」

「でも、なんか…」

ニコリと笑い、布団を出ると玄関へ向かい靴を履いた。後ろではシンジくんが心底不安そうな顔を浮かべる。
そんなシンジくんを見て、やはりまだいたいな…なんて甘い考えが浮かぶ。だが、明日は仕事だ。早く帰らないと、僕もそして関係のないシンジくんにまで何らかの悪い影響を及ぼしてしまう。

「…、一つ約束していいかな?」

「え…?」

「また、ここにお邪魔したい。シンジくんが迷惑じゃなければ」

「そっ!そんなことないよ!迷惑だなんて…」

「じゃあ、また来るよ。だから今日は…」

「わかった。気をつけてね」

「ああ。また今度」

「うん」

ギギギッ…と扉が重たい音を立てながら開き、そしてバタンと閉じた。
僕はその扉を横目で見ると、前を向き再び帽子やら眼鏡やらを直した。そして、ゆっくりと歩き出す。まるで、名残惜しむように…いや、実際に名残惜しい。

でも、また会えると思うと、心は弾む。シンジくんと話す時間はあまりに充実していて楽しかった。その時に感じた気持ちと似ていて…自然に足取りも軽くなった。

「フフッ…約束、か」

君とした“約束”という言葉は、僕を特別幸せな気持ちにした。


end.

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あきゅろす。
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