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EVA
アイドル事情*新劇53

※カヲル、アイドルパロ(年齢:高校生)

深く深く、目元が隠れるくらいに帽子を被る。辛うじて覗く目元にだて眼鏡をつけた。

(よし、これなら大丈夫だろう)

姿見鏡の前に立ち、鏡の中の自分へ二、三度頷く。
あの日以来、外出なんてろくにできなくて、そんな中での久々の休み、そして外出だ。あまり間抜けな理由で周りの人間に迷惑もかけたくない。

そんな心構えの中僕、渚カヲルは軽く上着を羽織、カンカンと太陽が顔を覗かせる外へと足を踏み入れたのである。

***

(特に、バレてはいないようだね)

周りをキョロキョロと見渡し、人の視線が自分へ向いていないことを確かめ、ほっと胸を撫で下ろす。まさか、ここまで生活やらに支障が出るなんて、考えても見なかった。
僕は最近のいわゆる人気アイドル…らしい。らしい、というのは僕のマネージャーが言っていたからだ。つい最近、そのマネージャーのスカウトによって始めたアイドル活動だが、いまいち実感が湧かない。こうして、変装のような格好をするのも、マネージャーのお言葉からだ。

(別に、そんなに心配する必要ないんじゃないかな)

そりゃあ、バラエティーやドラマと活動は忙しくなっているし、ファンレターだって日に日に数が増している。だが、こんなあっさりとした変装もバレないのはむしろ人気のない証拠では?

(まぁ、備えあれば憂いなし、と言うしね)

きっと、損はないだろう。とポジティブに考えていると、後ろから柔らかい感覚とポンッと何かがぶつかった音がした。
くるりと振り返ると幼稚園児くらいの女の子が尻餅をついていた。慌てて大丈夫?と手を差し出すと女の子は泣くことなくその手に掴まる。

「よし。怪我はないかい?」

しゃがみこみ、立った女の子と目線を合わせ、状態を確かめる。女の子は少し経ってから満面笑みを浮かべた。

「うん!」

「それはよかった…」

優しく微笑みながらパパッと女の子についた埃を払う。女の子はその間、僕の顔を興味津々に眺める。

「どうか…したかい?」

「おにーさん…アダムス?」

「!?」

アダムスとは所謂、僕の芸名だ。こんな小さな女の子にまで僕は知られているのか、と嬉しくなる。…が、今はそんな場合じゃないかもしれない。
今の女の子のアダムスという言葉で周りにいた数名の女性が一気にこちらを見たのだ。

(これは…きっと、いや絶対に)

ヤバい。そう思った瞬間に…

『キャアアァァァ!!』

鼓膜が破れる程の高音。これを黄色い声、というのなら僕はこんなもの浴びたくないとすら感じる。
声の主はというと、全て女性。そして、視線は僕の方へと向いている。彼女らの口からはアダムス様、アダムス様と聞こえる。冷や汗が止まらない。
とりあえず、女の子は迎えに来た母親に引き渡し、僕は力一杯走り出した。

(まさか…こんなことになるなんて…!)

マネージャーの言っていたことが真実だと知り、信用していなかった自分を叱りたいとさえ思った。
思い切り走ってはいるが、追いかけてくる女性が退く様子はない。だんだん、体力に限界が近づいてくる。

「はぁ、はぁ…」

息が上がり、速度も遅くなる。このままでは捕まってしまう。それだけは避けなくてはならない。
だが…と諦めかけた次の瞬間だった。

「!?」

グイッと曲がり角から出てきた手にいきなり引っ張られた。僕はそのまま、曲がり角の手間にあった路地裏へ入り込む。

「えっと…すいません。大丈夫、ですか?」

路地裏には、少し地味な格好をした少年が立っていた。
女性らの黄色い声は次第に小さくなる。どうやら、気づかれなかったようだ。

「はい。あ、ありがとう…ございま…―――」

「え!ちょっと!?」

一瞬で目の前が暗くなり、最後に聞こえたのは…僕を助けてくれた、少年の声だった。


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