頂き物小説
いぬ。E
 橋のそばの電柱の下。
 そこがあの子を捨てた場所。


「ここ」

 ヒロトが呟いた。

「ここ、ね。あたしが、可愛がってた犬を捨てたところなの」

 小さな小さな、重い命を。

「どうして?」

 ヒロトが私を見て言った。

「団地に引っ越して、そこでは飼えなくて……。嫌だって言ったのに」

 涙が目の淵にたまる。

「いらなくなったからじゃないの?」

「当たり前じゃない!あの子はあたしの友達よ!家族よ!いらないわけ、ないじゃない……」

 ヒロトに当たってしまった事を、少し悔やみながらあたしは涙を拭う。

「仲直り、したかったな」

 あの子はもう、ここには居ないけれど。

「奈希ちゃん」

「何?」

 しゃがみこんで俯くあたしに、ヒロトは声を掛けた。

「だいすきだよ」

「?」

「ずっと、ずっと、だいすきだよ」

 あたしは、顔を上げてヒロトを見た。ヒロトは…、泣いてた。

「ヒロト?」

「ボクは、奈希ちゃんが要らなくなったから捨てたんだと思ってた……。悲しかった。淋しかった」

 ヒロトは、あたしの手を握る。
 暖かい。

「……ヒロト?」

「ごめんね、奈希ちゃん」

 ふと、脳裏をよぎったのは、あの子。

「ひ……ろ?」

 ヒロ。それがあの子の名前。
 すると、ヒロトはにっこり笑って頷いた。

「!」

 ああ、どうして気付かなかったんだろう。

「ヒロ、ヒロ、あたしのほうこそ、ごめんね!」

 そういうと、ヒロトは一際強く手を握った。

「仲直り」

「ありがとうっ! ヒロ」

 次第に消えていくヒロを見つめながら、あたしは何度も感謝のことばをのべた。



 ありがとうヒロ

 貴方のことは、きっと忘れない。

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