白くまマン
風船事件と卒業生?
「ほら、まー君向こうで風船配ってるよ!」
「ホントだぁ! もらって来てもいい?」
まー君こと高見野 正芳(5)は母親、高見野 風花(28)の頷く姿を見るや風船配りをしているピエロ目がけて駆け出した。
「転ばないでよ〜」
「うん!」
風花の注意を背に受けながらまー君は走った。しっかり一回転び泣きそうになっていたのは言うまでもない。
「はい、坊や今度は転ぶんじゃないよ」
「えへへ、うん!」
風船配りピエロにまで言われまー君は恥ずかしそうに笑って頷いた。
風船をしっかり握り締め、まー君は風花のもとへ今度は転ばないよう慎重に歩いた。
ビュウ!
そんな時辺りに突風が音をたてて駆け巡った。
「あっ! 風船!」
突風の吹き抜けた後に小さな悲鳴が上がった。フワリと青色の風船が風に乗って空高く運ばれていた。
「風船がぁ……うっ、ひくっ!」
風船を風に持っていかれたのは、まー君の近くにいた女の子だった。
女の子は必死に風船を掴もうとジャンプしていたが飛んでいった風船は小さな点となってやがて空の彼方に消えてしまった。
「うわあぁぁん! 真実の風船がぁぁぁ!」
女の子は風船が見えなくなると地べたに座り込み泣きだしてしまった。
事態に気付き慌てて駆け寄ってきた女の子の父親と思われる男の人も困り果てた様子で女の子を抱き抱えあやしていた。
新しい風船をもらうにも既に風船は全部配ってしまったのか無くなっていた。
ますます大きく泣き叫ぶ女の子と、まー君は自分の持っている風船を交互に何度も見ながらやがて意を決したように自分の風船を女の子に差し出して言った。
「あげる! これ、あげる! 色違うけど……」
「うっ……い、いの?」
「うん!」
女の子はまー君から風船を受け取るとさっきまでの嘘のような花のような笑顔になった。
「ありがと!」
「どういたしまして、今度は放さないでね!」
まー君は一言告げるととクルリと背を向けて風花のもとへ走った。途中またしも転んで泣きそうになったのは言うまでもない。
そんな、まー君の背中に向かって女の子は「ありがとー!」と叫び、女の子を抱き抱えていた父親は深くお辞儀をした。
※※※※※※※※
帰り道まー君と風花の二人は仲良く手を繋ぎ歩いていた。
「風船よかったの?」
「うん!」
歩道を歩きながら風花は我ながらよくできた息子にさっきの風船の事を聞いた。
「ホントはあげたくなかったんでしょ?」
「……ぅん」
小さく答える素直な息子に風花は口元を緩めた。
「本当にいい子だなぁ〜! まー君は! ご褒美に今日の夕飯はまー君の好きなものを作ろう! 何がいい? 何が食べたい?」
まー君を偉い偉いと撫でながら風花は聞いた。
「何でもいいの?」
まー君は上目遣いに風花に問う。
「何でもいいよ〜! そら言ってごらん?」
優しく言う風花に、まー君は頷くと大好物の食物の名前をあげた。
「じゃぁ、ハンバーグ! ハンバーグが食べたい!」
風花は大きく頷くと腕まくりをしながら答えた。
「よ〜し! 今日の夕飯はハンバーグだ!」
「やったー!」
まー君は嬉しそうに飛び跳ね、その弾みで転び泣き笑いなったのは言うまでもない。
※※※※※※※※
「たっだいま〜」
「おかえりなさ〜い」
「おっ! 今日の夕飯はハンバーグか〜。何かあったのか〜」
鼻をヒクヒクさせながらまー君の父親、高見野 正伸(32)は玄関にまでパタパタと出迎えにきてその途中バタッ! と転び泣きそうになった我が息子まー君こと正芳に聞いた。
「あのね〜――……」
「おぉ! そうかそうか、いい事をしたなぁ〜。うん。そんな偉いまー君に秘密の言葉を教えよう―――――だ。大きな声で呼んでごらん」
一通りの話を聞いた正伸はまー君の耳元で何かを言った。
神妙な顔つきで聞いていたまー君は正伸に言われた通りに大きな声で言ってみた。
「白くまマン!」
すると何処からともなく白い煙が……――。
まー君の目の前に白くまがいた。その白くまは、まー君にスッと風船を差し出した。まー君は白くまの登場に目を真ん丸くして驚きながらもしっかりと風船を受け取った。そしてまー君が瞬きをしたその一瞬に白くまは消えていた。
「あれ?」
小さく声を上げたまー君に正伸は言った。
「あれが白くまマンだよ。困った時に呼ぶと白い煙と一緒に顕れて助けてくれるんだ」
まー君は風船と正伸を見比べて嬉しそうに笑い、台所でハンバーグを作っている風花に報告をしに行った。
「ママぁ! 白くまマンが風船を届けてくれたぁ!」
「おっ! ホントだ! まー君がいい事をしたからだね!」
「うん!」
高見野一家はその日楽しい夕食を過ごした。
スヤスヤと安らかに眠るまー君を見ながら正伸は引き出しから一枚の紙を取り出した。その紙には――。
表彰状
高見野 正伸
貴方は白くまマン育成学校の全課程を修了した事を此処に証する。
○△二十八年三月十八日
白くまマン育成学校校長 白熊 万
第一七五九号
と、こう書かれていた。
「あら、まだとってあったの?」
風花は正伸の手元にある紙を見て言った。
「いやあ、捨てられなくてね」
その紙を引き出しに戻しながら正伸は言う。
「誓約書まで書いて辞めたのにバカね〜」
「そりゃ酷いよ風花さん」
「だってホンとの事じゃない?」
「うっ」
言葉につまった正伸を見て風花はクスクス笑った。それにつられて正伸も笑い、瞬間「まー君が起きるでしょ!」っと風花に殴られ口を閉ざした。
暫くして高見野家の明かりが消えた。
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