白くまマン
こんな時代からヤツは居た!!

 今から約1300年前の事。時は平安。
 京の都の片隅に彼の者は暗躍していた。
 彼の者の名は白くまの公。これから話すはある都の宮殿に住まわし姫君の話。

 ある都にそれはもう美き娘が居ったそうな。その美しさは言葉に表せぬ程だった。娘の美しゅう姿を一目見た者達はぜひ妃にと先を争うようにあちこちから求婚を求め来たそうな。
 娘の噂は天皇様の耳にもお入りになっての、興味がわいた天皇様は娘を宮殿へと招いたそうな。天皇様は娘を一目見て妃にと申したのじゃ。もちろん娘はその申し出を断る術はなく天皇様のもとへ嫁いでいったそうな。
 天皇様から娘は『藤壼』との名前と『花殿』なる宮殿を頂いき日々を過ごしたそうな。春には花を愛で、夏には青々と茂る葉や動物を愛で、秋には紅葉を愛で、冬には雪を降りる霜を愛でながら四季を過ごしていったのじゃ。
 だが藤壼ノ姫には、思い人が居たのじゃ。離れ離れとなり長い時を経た今も忘れられずにいたのじゃ。


「あぁ。彼方様今何をしていらっしゃるのでしょう? わたくしが天皇様の妃になどなずにいれば……」

 そう言うと藤壼ノ姫は倒れ伏しさめざめと泣くばかり。

「彼方様と文を交わす事さえ今となれば泡沫の夢」

「あぁ。姫様なんとお痛わしいお姿を」

 藤壼ノ姫の痛々しい姿を見ていられず老齢の侍女が顔を覆った。
 藤壼ノ姫は来る日も来る日も泣き続けとうとう床に伏せてしまった。

「婆や。わたくしはこのまま死に行くのでしょうか?」

「なんと姫様! 縁起でもない事を口になさってはなりませぬ!」

「ごめんなさい婆や。でもね、このまま彼方様にお逢いできないのならばいっそ死んでしまいたい……」

「姫様……」

 と、そんな時どこからともなく白い煙りが出てくると目の前に白い熊がいた。

「なっ! 何者じゃ? 姫様の寝所に誰の許しがあって入ったのじゃ?!」

 白い熊は侍女の言葉に困った風に首を傾げゆっくりとした動作で藤壼ノ姫に何かを差し出した。

「婆や。待って」

 藤壼ノ姫は今にも人を呼びに行きそうな侍女にそう言うと白い熊から差し出されたものを受け取った。

「姫様! まだ起き上がっては!」

「大丈夫よ婆や。心配しないで」

 白い熊から差し出されたものは文だった。

「この文字は……」

 文には見覚えのある文字で『藤壼ノ姫君』と綴られていた。藤壼ノ姫は震える指先で文を開ける。

「婆や! 見てちょうだい!」

 侍女も藤壼ノ姫の持っている文を覗き声を失った。

「ひっ姫様! この文は!」

 侍女は口を戦慄かせながら藤壼ノ姫に問う。

「そうよ婆や! 銀ノ上様からの文よ!」

 藤壼ノ姫に文を差し出した白い熊はいつの間にか消えていた。
 その日を境に藤壼ノ姫は見る見るうちに生気を取り戻し、より美しゅうなったそうな。

「白くまの公。白くまの公。」

 するとどこからともなく白い煙りが出てくると目の前に白い熊が顕れた。

「白くまの公よ。わたくしの文を銀ノ上様に届けておくれ」

 白い熊は一つ頷くと藤壼ノ姫から文を受け取り消え去った。
 あの日から藤壼ノ姫は思い人の銀ノ上と秘かに文を交わしていた。文を運んでいるのは銀ノ上からの文を運んで来た白い熊。
 その後、藤壼ノ姫は下克上を果たし新たな天皇となった小田原銀ノ上の妃として娶られ、紫陽花ノ君と名を換え仲睦まじく暮らしたそうな。



 彼の者は秘かに京の都の間で噂となっていた。呼べば白い煙とともに顕れ願いを叶えてくれると言う。
 その名も白くまの公。
 これはある都の宮殿に住まわし姫君の話。

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