extra……*
日常と非日常の境
┗NandSより
どたばたと階段を駆け上がる音が聞こえる。あの駆け上がり方はアイツだなと誠一は思う。
バタンッ!
「誠一っ!急な依頼よ!すぐに行くから支度してっ!何寝てんのよっ!早くしなさい!」
勢い良く開かれた扉の向こうにはやはりと言うか思った通りと言うか七海が立っていた。
(ほら、な。アイツに付き合うとろくな事ないんだよなぁ………)
小さく舌打ちをすると誠一はベットから身を起こす。それでも七海の言う通り支度を始める自分が少し惨めだ。
日常と言う名の平穏が懐かしい。
「っかたよ…はあぁ……」
元気だなと、昨日、いや今日の今の今迄徹夜で依頼を片付けていたとは誰も思わないだろう。いや、そもそもこんな仕事をしているとは誰も思わないだろう。あまりにも非日常過ぎる。
「何、溜め息なんてついてるのよっ!さっさと、ちゃっちゃと準備して!」
ここまで七海を元気にさせられるのはただ一つ。
(こりゃ絶対に報酬に釣られたな……目が¥マークになってるぞ)
昔からお金の言葉に弱い七海。お金以外に大切なものはないのか?と疑問に思うがそれは多分一生の謎だ。胸中で一つ溜め息を吐くと諦め顔で七海を追う。
玄関から出てきた誠一を見ると七海は靴を道路に押しつけ叫ぶ。
「誠一!行くわよ!」
道路に引かれた白線をスタートラインのように自らの声をスタート合図にして勢い良く走り出した。
後ろから続くのは嫌々顔の誠一。けれど口の端に小さく笑みが浮かんでいた事に前を向き走る七海は気付かない。そして誠一自身すら――。
(ま、悪くは無いけどさ)
こんな風に七海といる事に居心地良く思う自分はもうどうかしているのかもしれない。ちらりと過る思考を振り払い誠一は走る。既に笑みは消え仕事を前にした真剣な表情になっていた。
-fin-
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