短冊集
◇ケルベロス、リストラされる
「本日も始まりました、生放送番組<理不尽な現代社会に物申す>。本日は長年番犬として勤めていた会社を突然解雇されてしまったKさんにお越しいただきました。なおプライバシー保護のため、声には加工をさせていただき、お姿は磨り硝子越しの放送となっております。Kさん、本日はよろしくお願いします」
『あ、よろしくお願いします』
「それでは、どのようにして解雇を通知されたのかお聞かせいただけますか?」
『はい、あれはいつものように守衛室にあるモニターに不審人物が映っていないか目を光らせていたときでした。スピーカーからハデ……あ、社長室まで来るようにというアナウンスが流れてきました』
「そのように社長の元に伺うことはよくあるのですか?」
『そうですね。自分で言うのもなんですが、彼とはつうかあの仲だと思っていました……。それなのにっ!』
Kが突然語気を荒らげたため、アナウンサーは表情を崩さないものの身体をピクリとさせた。
「そうとう悔しかったでしょうね」
『悔しいというか情けないです。私も年には勝てないと思っていたので、いつかはこういう日が来るとは思っていました。しかし理由がなんだったと思います? 地獄の番犬だと怖がってお客が寄りつかない、地獄の招き猫にするって言うんですよ?』
「招き猫ですか? 番犬から招き猫とはイメージが大きく変化しますね。確かに招き猫の方が、個人的には柔らかいイメージを持ちます」
『そうですね。ですがそう簡単に客が来るのでしょうか? それに私は、客の顔を気にしない、我を通していく社長の姿が素晴らしいと思っていたのに……』
涙を堪えているのか、磨り硝子越しのKの姿は小刻みにプルプルと震えている。
「思いの丈をまだまだ話していただきたいところですが、ここで一端CMです」
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