[携帯モード] [URL送信]

まよたま!
11.夜間警備A
 どうやら右京の目論みはうまくいったようだ。熊はどこの民家にも飛び込むこともなく、人気のないところに落ちた。


 ここから最終決戦。


「さぁ決着をつけるか」


 右京が仰向けに寝そべる熊に近づいていく。熊は子どものような大きさの体をむっくりと起き上がらせ、その小さな腕を掲げた。


『邪魔するやつは――』


 さっと振り下ろす。


『――捨てられろ』


 腕の先端には本体に似合わない三日月が続いていた。首狩りの異名は伊達ではないようだ。


 右京は素手だが臆することはなかった。動くという点で不安はない。氣を用いて身体能力を高めることは日頃から行っている。


 しかしここに来てすぐに動ける様子から、衝撃の面で熊はタフなようである。熊を制するのは手がかかりそうだ。


「氣鋼闘術は久しぶりだな……」


 氣鋼闘術――己自身を武器とする戦い方。


 立ち止まり氣を集中させるのは脚部。特に爪先に纏う氣のイメージは鋭利に。さきほどは場所を変えるために弾き飛ばすことに力を使った。しかし今度はダメージを与えるのが目的だ。


 先手必勝。右京は近ごろリボルバーを使用していたとはいえ、元来日本刀使いである。得物がないからといって間合いを開けているのは性に合わなかった。


 元の脚力でもすぐになくすことができる距離だが、一度に0にするため氣の解放により跳躍した。まるでそれは大きな一歩。熊が間近に迫ってくる。右京は熊の手前で片足を付け、勢いを殺さず体を捻る。


 踏み出して狙ったのは今度も蹴りによる攻撃。できるだけ点で、右京はそう意識して軸脚を中心に身体を回転させて蹴りを突き進める。


「空筒!」


 唱えられる業名。鳥の觜のように尖った氣が熊を襲う。熊は避けられない、右京は確信した。短く音が鳴り、右京の足が止まった。


「案外やるな……」


 右京は振りぬいた足を降ろして熊を見据えた。


 両者の距離は一旦0になったが今は数メートル開いている。右京の觜は熊の身体を突き抜けることはなかった。熊は鎌の柄で右京の蹴りを受けていた。


「だが――」


 熊が柄を当てることができたのは右京のくるぶし付近。熊は鎌を手元から離れた位置で操ることができる訳ではない。狙い難い体の小ささが今度は災いした。鎌の柄で右京の蹴りを止めることはできても、業を自身に届かないようにすることはできなかった。熊の胸には突き抜けていないとはいえ、えぐれた黒い窪みができている。


 右京と距離が空いたのは右京のパワーに負けたからだった。


「この調子ならそんなに苦労しないですみそうだな」


 右京は片膝をつき片手をそっと地面に当てた。


「それじゃあ次はっ!」


 再び間合いを詰める。熊はタイミングを合わせ袈裟切りを仕掛ける。右京は詰め寄りきらず手前で左足を軸に時計回りに回転した。過ぎ去る柄を掴み自分の方へと引き寄せる。



 少し浮き上がった熊に、今度は右足を軸にし回転の勢いを利用した右京の左足が繰り出される。熊は右京が跳躍する前に片膝をついたところへと飛ばされていく。


「犀起!」


 熊に合わせて飛んできた右京。自らの勢いを殺すために強く地面を踏み付け、新たな業名が唱えられた。


 刹那、水平だった熊の飛び方は下から叩き上げられるように垂直へと変わった。


「仕舞だ! 雷せ――」


 無防備になった熊だったが、何も起こることなく重力により地面に落ちた。すぐさま右京との距離をとる。


「いけねぇいけねぇ、あれは音がでけぇからここで使うとまずいな。だがそろそろ締めに代わりはないぞ」


 右京は決戦を終わらせるために構え、熊の方へと身を進めようとした。


「右京さぁーん!」


 右京は気付かぬ内に近づいていた別の驚異によって勢いを止められた。

[back][next]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!