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まよたま!
8.鍛冶屋マスラオ
 家の中から出てきた顔は爬虫類を思わせるものだった。面長であり鱗が付いている。色素は火を思わせる紅だ。


 今扉は大きく開かれている。咲来の目の前に立っているドラゴンはつなぎを着ていて首から下を隠すほどの大きな前掛けを付けている。


「おぬしが右京の使いか?」


「あ、はい! 笹本咲来と言います!」


 咲来は深々とお辞儀をした。


「これはこれは右京に似ず礼儀正しいお嬢さんじゃな。さっ、こんなところで話すのもなんじゃから入ろうか」


 ドラゴンは扉を押さえながら咲来を小屋に招き入れるように横にずれた。


「失礼します……」


 態度からドラゴンは優しいと想像できる。しかしドラゴンという存在、その威圧感が咲来を緊張させてしまう。


「ちょうど一段落ついたときに来てくれてよかったよ」


 咲来が小屋に入ったことを確認してドラゴンは扉を閉めた。


「おっとすまない、すまない」


 ドラゴンは扉から少し離れたところでつ突っ立っている咲来を小走りで抜いていった。身体が大きいために足音が鳴る。


「さぁここに座ってくれ」


 ドラゴンはテーブルを囲む六脚のイスの内の一つを引いて咲来を誘導した。


「ありがとうございます」


 咲来を座らせるとドラゴンはテーブルを挟んだ反対側のイスに座った。


「そういえばワシの自己紹介がまだじゃったな。ワシはマスラオ。分かっていると思うがこの小屋で鍛冶屋をしておる。トカゲではなくドラゴンじゃからな? その辺りは間違えないように」


 マスラオは牙を見せながらにかっと笑った。テーブルの上に置かれた水差しを手にしコップに水を注いだ。


「それにしてもここに着くまで苦労したようじゃの。ひとまずこれでも飲みなさい」


 咲来は促されるままコップを手に取った。誘われるまま口元へとコップを運ぶ。水は冷たく飲むと癒された。


「クハハハハハ。そんなに喉が乾いておったか。格好からしてかなり手荒い歓迎を受けたようじゃしの。ちょっと席を外すから好きなだけ飲んでくれ」


 咲来が一気に水を飲み干したのを見てマスラオは水差しを咲来の方に寄せた。


「そ、それじゃあお言葉に甘えて……」


 イスから立ち上がり部屋の奥へと歩いていくマスラオには見られていないが咲来は頬を染めた。喉の渇きにはあらがえず一杯二杯とコップに水を注ぎ飲み干していった。


「ふぅ〜」


 これで本当に一息つけた。すると忘れていた疲労を自然と意識しだす。


「ふぁ〜〜〜あっ」


 大きな欠伸をしてここが初めて来たマスラオというドラゴンの家だと思い出した。


「ボクとしたことが……。疲れで気が弛んだようですね」


 両肘をテーブルに、顔を掌に乗せた。イスにしっかりと腰掛けると指先が届かなく足をぷらぷらさせる。ここのイス――に限らず周りにあるもの全般――は大きなマスラオに合わせたサイズだ。小柄な咲来と比べるとより大きく見える。


 足をぷらぷらをしても疲れが無くなる訳ではない。疲労は眠気へと変化する。


 瞼をゆっくり閉じてはぱっと開くを繰り返し、閉じている時間が長くなっていく。


「すまんの。男独り身では雑になって薬箱を取り出すのに手間取ってしまったわ。……ぬ?」


 木箱を手にしたマスラオが部屋に入ってきた。彼の視線の先では少女が机に突っ伏して夢見ているようだ。


「こんな可愛らしい子にも手加減なしか……。なぁ?」


 マスラオは後ろを振り向いた。彼の後ろには細身の人物がいた。咲来が家に入ってきたときに他に人気はなかった。急に現われたとしか思えないがマスラオに別段驚いた様子はない。その人物の服装はスーツという真面目なものなのに、頭にはふざけているとしか思えないカボチャの被り物をしている。


「そうやって人を悪者にしないでくださいよ。右京さんがやるなら思いっきりって言ったんですよ」


 表情は彫られたもので感情を表しているとは限らない。しかしその声は愉悦を含むような少し高めであり今はあながち間違いではない。


「右京もひどいもんじゃの。クハハハハー」

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あきゅろす。
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