まよたま!
7.カマフェスティバル
森の中を駆け抜ける少女。その速さはまさに疾風。
彼女を照らすいくつものスポットライトはモデルを逃さないように付いてくる。
「どうしてこんなことになるんですかー!」
咲来の後ろを追い掛けるのは無数のカボチャ頭達。
「ホケケケケー」
「ホケケケケー」
「ホケケケケー」
無数のカボチャ頭はそれぞれ三日月な鎌を振りかざし猛進する。しかし周りに茂っている木々はまったく傷付けない。森林伐採は推進していないようだ。
付かず離れず。咲来は見るからに全力で走り、カボチャ頭は愉快に飛んでいる。
咲来は今、氣の効果により通常よりも速く動いている。氣とは人間の内側に秘められた力。視るといった目に対する力だけではなく他の肉体の基礎能力を向上させることもできる。
しかし氣は無限に消費し続けれる訳でもなく、またその媒体となっている身体にも限界がやってくる。
咲来は無限とも思える時間を走り続け疲労も溜まりうまく頭が回らない中、走る道の先がキラキラ光っていることを確認した。
すぐに木の海が開いて湖が現われた。
咲来は水を見つけて自分の喉の渇きを意識した。しかしその水を飲む訳にはいかない。今後ろには無数のカボチャ頭達がいる……はずだと思っていたがそれを確信できない。今まであった緊迫感と囁きがなくなっていたのだ。咲来は後ろを振り向いた。
「誰も……いない……」
荒い呼吸混じりに見たままを呟いた。視界の中には鬱蒼とした緑が広がるだけでランタンの明かり一つ見えない。今までいったい何から逃げていたのかと思えてしまう。
咲来は力が抜けて尻もちをついた。そのまま仰向けに身体を倒してしまい服に汚れが付くとも思ったが起き上がらなかった。
しばらくぼうっと空を眺めているとどこからともなく音が聞こえてきた。短く何度も鳴る衝突音。
「金属を叩く音?」
咲来はゆっくりと上体を起こして辺りを見渡した。湖にたどり着いたときには気が付かなかったが湖畔に一軒の小屋が建っている。
休むことではっきりしてきた頭の中で、金属を叩く音と右京の日本刀が繋がった。
「鍛冶屋!」
目的地を発見したという喜びで疲れが吹っ飛び起き上がった。咲来は足早に小屋へと進んでゆく。
さほど距離はなくすぐに小屋の扉の前まで来た。
「インターホンなんてありませんね。いきなり入る訳にもいきませんし……」
扉を叩いて声をかければいいのだろうが初めて来た家で中にいる者とは初対面、しかもここは魔界という別世界だ。小屋の外見は決してまがまがしいものではないが入るとなると緊張してしまう。
「そういえばさっきまで鳴っていた金属音が止んでる。作業が終わったのか……ボクが来たことに気付いて構えているのか……どちらなんでしょう?」
やるしかない。咲来はどんとこい精神で扉をノックして中にいる者へのコンタクトをとった。
「す、すいませーん」
「……あー、はいはい。ちょっと待ってくれ」
中から来た返事の声質から男性だと推測できる。重量感のある足音がこちらへとやってくのを感じて咲来は二、三歩交代した。
足音は扉を挟んだ向こう側で止まった。取っ手が周り扉がこちら側に押されて開いていく。
家の中から出てきた顔を見て咲来は一言。
「トカゲ?」
「なっ……何を言うか! ワシはれっきとしたドラゴンだ!」
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