まよたま!
13.追い付いた
「ふぅ。こっちの方に来たはずなんだけど……」
見失わないようにおもいっきり走ってきました。しかし結局汗を拭いながら探している状態です。
ん?
どこかから小さな声が聞こえました。
「右京さんかな?」
ボクは声が聞こえてきた方へ向かいました。
「それにしてもあの人は一体なんなんですか? あんなのおかしいでしょ」
右京さんのありえない行動を思い出し、独り言を呟きながら歩きました。
右京さんみたいに変人に思われてしまうとあせって周りを見回しましたが人はいません。気がついていませんでしたが、家が少なく緑が多いです。ここなら人が少く目立つことはないでしょう。
〈いやじゃー〉
おじいさんの声だ!
「叫び声だな。まさかあの人なにかやらかしたんじゃないだろうな?」
いそがなきゃ!
叫び声に不安が湧いてきて再び走りだしました。すぐに見覚えのある変人を見つけました。
「あっ、右京さ──」
〈離すんじゃぁぁぁ〉
「──んんん?」
正面に見つけた右京さんを呼ぼうとした声は掻き消されてしまいました。なんだと思い視線を斜め上に持っていくと、見たことのない光景がありました。
「おっ! よう咲来」
「よう、じゃないですよ! これは一体何がどうなっているですか!?」
ボクの目の前で何が起きているかと言うと、おじいさんが捕まっています。しかし捕まえているのは右京さんではありません。
《ギギギギギィィィ》
何かが擦れる音を響かせる大きな影。外観は人型。足まで隠れる身体と同じ暗さのローブのようなものを着ています。
膝立ちで片腕を地面に付け、もう片腕は伸ばしておじいさんの服をひっぱっています。その手はおじいさんの体を掌握できそうなほどの大きさ。おじいさんは電柱に捕まりなんとか抵抗しています。
「これか? まぁ後で説明するよ。それより日本刀貸してくれないか?」
右京さんは少しも焦らずボクの方に歩いてきて風呂敷を指差しました。
これも慣れですか? ボクはあまりの急展開に逆に驚けません。
「どうするんですか?」
右京さんは風呂敷をほどき風呂敷だけ返してきました。
「このまま放置してても話が進まないからな。助けてやるんだよ」
「助ける? それなら自分の銃を使ってやればいいじゃないですか?」
「こっちの方がやりやすいんだよ」
右京さんが刀身を鞘から抜くと、ひときわ大きな叫び声が聞こえました。
ついにおじいさんは電柱から引き剥がされてしまいました。しっかりと掌握されて逃げられません。
「じいさん! 助けてやるがもう逃げ出すんじゃねえぞ。次はないからな」
〈分かった。分かったから助けてくれ〉
《ギギギギギィィィ》
おじいさんは身動きをとれないままどんどん影の口元に運ばれます。影の動きは遅いためおじいさんの恐怖は駆り立てられているでしょう。
「ボケたとかも通用しないからな?」
〈分かっとる、分かっとるから……イィィィヤァァアァァァ〉
ついに影は口を開き咀嚼の意を表しました。
刹那、ボクの横を風が走りぬけました。同時におじいさんを掌握している手がおもちゃのように手首の部分で外れました。
《ギギキキキィィィ》
高い音が鳴り響き、粘性のありそうな黄色い液体が切断面からしたたり落ちました。
影は繋がっている右手で落ちた左手を掴み、切り口に擦り合わせました。何度かひねると右手を離しても左手は落ちていません。
「咲来、じいさんを家まで届けてやってくれ」
影の側に立っている右京さんの腕の中には気絶したおじいさんがいます。おじいさんを放り投げてきたのでボクはあわてて受け取りました。
「右京さんは?」
「オレはちょっくらこいつと遊んでるよ」
「遊ぶって……こんなのとですか?」
《ギギギギギィィィ》
影はせっかく手に入れた獲物がなくなり気分を害してしまった様子です。
「ちゃんと帰ってきてくださいよ?」
《ギギギギギィィィ》
「ん? なんて言った?」
「せいぜい楽しんでくださいと言ったんです!」
「おう。任せとけ」
右京さんは影に跳躍し、ボクはおじいさんの家に向かいました。
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