まよたま!
6.春眠暁を覚えず
「Zzz……」
オレは今、太陽の光の爽やか攻撃に負けて爆睡中だ。
「Zzz……」
まだまだ爆睡中。
「Zzz……」
まだまだ爆睡中。
「Zzz……ンガッ」
もっともっと爆睡中。
──ガチャ
「ただいま、右京さん。お待ちかねの咲来様がお帰りになりましたよ〜」
「へぱらぎっ!?」
俺は全身をビクンと痙攣させてから目を覚ました。
「はぁ? 一体何やってるんですか? もしかして、電車が向かってきてるのにホームから蹴り落とされる夢でもみたんですか?」
「いや、そんな悪意丸出しなものじゃなかった。なぜかは分からないが、体が急速にガリガリになるを夢をみた」
なぜか妙にリアリティがある夢だったな。
「…………」
「どうした?」
「え、いや別になんでもないですよ。そんなことよりどう思いますか、これ?」
え? どう思うって言われたら、そりゃ。
「キャディーさん?」
だって、咲来は背中にゴルフバックを抱えているんだもん。
「え、うん。まあ、どうせその程度の反応しかできない思ってましたけど。どうせ右京さんですし」
「おいおい。なんだよ、その冷めた視線は。
ところで咲来さん、アナタは入れ物を買いに出かけたんじゃありませんか?」
「そうですよ。ですからこれを買ってきたんじゃないですか?
ほら、ピッタリ!」
咲来は日本刀を突っ込んだゴルフバックを、どうですかと言わんばかりに強調した。
揺らすたびに日本刀のカチカチという音がバックの中から聞こえる。
「何だか虚しい音だな。日本刀も嫌がってるんじゃないのか? そんなゴルフバックに入れられて」
「え〜、なんでそんなこと言うんですか? せっかく買ってきたっていうのにつまんない人ですね。その程度の男だとすぐ女性に飽きられちゃいますよ」
「ふっ、男は優しくしてればいいってもんじゃない。一番大事なのはやっぱり顔だ。そう、俺みたぃ──」
「ゴルフバックがダメだって言うんなら、一体どうすればいいんですか? また買いに行くなんて面倒ですよ。お金ならいくら使っても構わないんですがね、どうせボクのじゃないんですし」
はい、出ました。お得意のシカト。もう慣れちゃって涙の一つも出ないよ。
「なんだ、ボクのじゃないっていうのは? もしかしてあのおっさんに貰ったのか?
まさか……体を!?」
「死にますか?」
ゴルフバックに入っているので取り出しにくいはずなのに、咲来は神速の抜刀で日本刀をオレの首に寄り添えた。
「ゴメンなさい。私が悪かったです」
「もう、謝るくらいなら最初からしなければいいでしょ? ふざけてばかりいると、永遠に覚めない夢を見ることになりますよ」
「それはイヤだな。つうかなんで日本刀を口の前へ持ってきてるんだ?」
咲来はデスクの上で正座するような状態で乗り、持ち上げた手には日本刀が逆手で持たれていた。刀身は垂直に俺を狙ってる。
自然オレは刄から逃げるように体をイスに沈め顔は天井を向く。この状態で咲来を見るのは少しキツイな。
「飲んで下さい」
「へ?」
「この距離で聞こえないなんてどうしたんですか? きっと8ヵ月以上耳掻きしてないからですよ。仕方ないですね、もう一度言いますよ。飲んで下さい!」
咲来は一度目より少し大きめの声で繰り返した。
「別に大きな声で言わなくてもちゃんと聞こえてたって。咲来が言ったことの意味自体が理解しがたかったんだよ」
「考えるまでもなく意味なんてそのままですよ。大道芸みたいにスルスルって飲むだけです。ゴルフバックがダメとなると隠す入れ物が他に無いでしょ? 何かないかと考えれば自ずと出る答えです。
ダメだって言ったのは一体誰でしたっけ? 自分の発言には責任を持ちましょう!」
出ましたー、咲来の満面の笑み。これが愛の告白ならどんなにいいことか。
しかし自ずと出る答えが日本刀を誰かに飲ませるってことだとはな、将来が恐ろしいぞ。
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