TickeT
響く足音(9)
僕はその言葉に対して聞き返さずにはいられなかった。
「どういう事ですか?」
「彼の名前は何でしたっけ?」
彼女の「応え」は「答え」ではなかった。
僕が望むものを貰えず、少し向きになりながら言った。
「彼の名前ですか、名前は……」
ずばっと言い返そうとしたのに、度忘れをしてしまったので少し恥ずかしくなった。
「ちょっと待ってて下さいね」
僕は急いで名刺を取りに行った。
そう、名刺には彼の名前が書かれている。名刺を見ればいいだけの事だった。
「あれっ、表になってたはずなのに……」
僕は窓の近くに表にして置いてあったはずの名刺を持ち上げて反対側を見た。
「えっ!?」
信じられなかった。片面にはさっきまで、確かに名前が書かれていたはずなのに、今はどちらを見ても唯の白紙だった。
僕は何が起きたのか分からなかった。紙になった名刺を持って彼女の所へ走るしかなかった。
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