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二冊の楽譜を手に、カウンターへと向かう。


一冊は目当てだったチェロの楽譜。
もう一冊は、ふと目に止まったピアノの楽譜。











会計を済ませ、CD売り場へと向かう。

先程購入した二冊の楽譜を手にして。


ずらりと並んだCDを前に、僕はキョロキョロと目的の人物を探す。



「……いた。」



彼女は、CDを試聴できるスペースでヘッドホンを片耳にあてていた。
なぜ片側だけにあてているのだろう?

手にしているジャケットにはチェロを持つ男の人がうつっている。


チェロの曲を聴いているの?


とたんに、自分の頬がゆるむのを感じた。



「………。」



このまま彼女の前には行けない、とペチペチと自分の頬を叩いてから再び歩き出す。

目をつむり、熱心に聴いている彼女のそばまで行くと、ヘッドホンをあてていない方から声をかけた。



「葉山さん。」



葉山さんの反応はない。
聞こえていないのだろうか。
こちら側はヘッドホンはしていないけど……



「…葉山さん?」



先ほどよりも大きな声で呼びかけるも、依然として反応はない。
余程集中して曲を聴いているのだろうか。

なおも反応を示さない葉山さんを不思議に思って、肩に手をかける。


突然肩に手をかけられたことに驚いたのか、葉山さんは大きく肩を揺らしてこちらに振り向いた。



「――っ、志水さんっ?!」



慌ててヘッドホンを外してこちらに向き直る。
僕と目が合うや否や、ガバッと身を倒して謝ってきた。



「ごめんなさい、気づかなくって…」



真剣に謝る彼女に、大丈夫だと緩く笑って答えれば、安堵の表情に変わった。



「その演奏者…。」
「え?」
「僕、好き。彼の演奏。」



未だ葉山さんの手にあるCDのジャケットの人物を指差して言う。
僕の言葉に、葉山さんも笑顔になる。



「私もです!ついつい聴きこんじゃうんですよね。」



お互い顔を見合わせて笑い合う。
こんな共通点があったなんて。
些細なことかもしれないけど、でも胸の奥があったかくなった気がした。



「じゃあ、真剣に聴いてたからなんだ。」
「?」
「何度か呼びかけたんだけど…」
「何度か、ですか?」
「うん。やっぱり集中してたんだね。」



聞こえてなかった?


僕のその言葉に、葉山さんの笑顔がそれまでと違ったものになった。



どこか淋しい、泣きそうな笑顔。



そして、ぽつりと彼女の口から言葉が紡がれた。





私、左耳、聞こえないんです。





僕は彼女のことを何も知らないんだ、と自覚した瞬間だった。




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あきゅろす。
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