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詩集

どこか
虫の懇願が浮かんでいる
草むらも
もう消えたというのに
基軸のずれた願いだけが
月のように
ふっくらと浮かんでいる
真っ白なフィルターのまま
燃え落ちてしまいそうな
紙巻きたばこは
左手のゆびさきを
順に焦がし
タールと肉の焼ける煙が
月にからんで

夜は深く
止まることを
堪え切れず
先へ伸びる

虫のあえぎはただ
外側の
世界に響く
つめたい
くもりガラスの向こう側で夜の
まっさらで
荒削りな空気を含んで
まどろんだ月に
タールをしみ込ませている
止まってしまいそうな
恐れを
溶けてしまいたい
その手触りさえも
虫の声は
かじりとって
月に
塗り付けている

誰か
歩いている
あえぎの響く
夜のアスファルトの上を
這うようにして
虫だろうか
赤のニット帽が
月の下で
二足歩行している
へらを握りしめた
あれは
虫だろうか

指を焦がす煙草
の煙を
むせ返るほど吸って
吹きつけてみれば
あのニット帽の
ちょうど中央あたりから
夜に向けて
まるみを帯びた懇願が
聞こえてくるのでは
ないだろうか

煙草は
指を焦がし
灰は
アスファルトに溶けた
虫は
月を隔て
歩いて行ってしまった

誰も吸わない
ときがとおる
焦げた指だけが
へらのような
煙草の紙箱を握りしめ
あえぎをうっている



あきゅろす。
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