詩集 小人の夢 彼は自分を北欧の妖精だと言った。小柄な男だった。 私の中指のさきから手首の際くらいまでしかない、いわゆる小人だった。 北欧の方の、妖精なんです。フィーンランドとかの。本当なんです。 本当なんです、本当なんです、と繰り返しながら、小人は私の足元へと近づいてきた。 小動物は息が荒く、仕草が小刻みで、素早い。彼もその類の生き物だった。 日本語が堪能なくせに、フィンランドのことをフィーンランドと奇妙に伸ばす口ぶりには、彼が本当に北欧の「方」の妖精かもしれないと思わせる何かがあったが、「とかの。」という現代的な言葉の切り方が私に正反対の猜疑心を生んだ。 私は北欧の「方」にまったく詳しくないのだ。 わずかに混乱していると、小人はすでに私の足に取り付いていた。 ストッキングに手を掛け、両足を突っ張り棒のようにして着実に登ってくる。 ものすごい膂力だった。 アジア系のアルピニストのような、小さな視線は真剣だった。 尻に頭をねじ込もうとしているに違いないと私は悟った。 彼の取り付いた太ももに、血がにじむのを感じた。 同時に、小人の眼差しが私の尻の厚みを確実にとらえていることを知った。 やめてください。意図せず、そうこぼした。それが精一杯だった。 あなたがそういうのなら止めます。 着実に小人の頭は尻に埋まり、声はくぐもっていたが、その口調は潔癖さを感じるほどにきっぱりとしていた。 私の逡巡が始まった。そしてそれは一瞬で過ぎ去った。 やめまーすが。 やわらいだ逡巡を絶望が塗りつぶした。はじめから小人はやめる気などなかったのだ。 あるいは私が拒絶に時間をかけ過ぎたのかとも考えたが、いずれにせよ彼は私の足元に辿り着いた時点で、特有の熱を抱えていた。 フィーンランドと奇妙に伸ばした発音は、ただの口癖か、あるいはどこぞの訛りに違いない。 考えたくないことだが、ただ哀れな私を困らせて楽しんでいることだってあり得るのだ。 それにしても、小人の発音が北欧の「方」の訛りではないことは疑うべくもなかった。 もう少しなんです。だってもう少しなんです。 もう少しなんです、と繰り返しながら、小人はついに私の尻を通りぬけ、直腸へと入り込んだ。 かわらず太ももが痛んだが、先ほどまでの鋭い痛みは消えていた。 小人は太ももに頼らずとも、自分を支えるすべを見つけたのだろう。 その証拠に、私は括約筋の内側に違和感を覚えていたし、声も二度と聞こえなかった。 夕食のあと、私は食べ物を少し戻した。 小人が大きくなっては困ると思ったのだ。 それから体重は増えることも減ることもなかった。あの時のままだ。 ← |