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詩集
けむり
灰皿にはなにかのたまごみたいに
ぎっしりと吸殻がつまっていて
部屋の景色は濃くしろく、にごっている
アンディ・マッキイの正確なギターが聞こえる

そこびえのする朝方のなかで
ファンヒーターがちいさく鳴いている
どの鳥もまだ鳴かない
それでも朝のつめたい時間は
舌をすべらせるみたいに、冷えた僕にふれる
窓のむこうがわの猫が、ぴんと遠くを見ている
駐車場に一台だけ停められた自動車が
息をつめた猫をじっと見ている

もったりと重い窓をひくと
煙のたまった部屋から外へ
けむりが抜けていく
けむりはするりと一筋の線になって、
薄いおびのようになって、
どこかへむけて流れ出る
猫がうごき、とけるように逃げた

けむりのおびは何かの行列みたいに
おびのまま、歩くように道をいく
まだやわらかく暗い道
には誰もいない


冷えた靴をはいて、外へ出る
少しひらいた窓からおびは伸びている
誰もいない道は息をしない
かたまった空洞のなかをおびがあるく
その隣をぼくはあるく
遠くの鳥が一度鳴いて、ふっと落ちる
注射器で血を抜き取るみたいに、道が息を吸った
それからまた、彼は息をとめる

むれ立った集合住宅のわきをすぎると、
けむりのおびははじめて力をこめて道を逸れ
大きな街路樹のねもと目がけてとびこんでいった
街路樹が、じっとこらえていたみたいに、
つまった息を吐き出した
じわり、
と幹が揺らいで、紙ずもうの力士に似た葉が落ちる

樹はなんども強く息を吐いた
紙ずもうの葉が落ちるたびに、
けむりは指でつくった輪っかくらいのちいさな渦をまいた

部屋の窓から出たけむりはやがて
樹のねもとに消えていった
けむりが消えてから、葉のない樹は一度くしゃみをした
名前のわからない鳥が鳴いた

集合住宅のむこうに、うすあかるくなった空が見える
つめたい手をポケットに入れると
あたたかいたばこの箱が冷えていった
部屋は、窓が少し開いているから、
もう冷えてしまったかもしれない

つめたいベッドを思うと、体がふるえた



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