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詩集
雪も降らない
ずっと南の島のむこう
雲のように湯気のたつ海のほとりには
小さなウィスキー工場がある

小さなウィスキー工場は
濃い目のウィスキーをつくるし
ウィスキーをいれる厚い硝子のびんもつくる

びんのなかには
びんづめにされたウィスキー工場がある
びんづめのウィスキー工場は
びんの底でウィスキーを作っている

海のほとりの小さなウィスキー工場では
海のほとりに工場ができたときから
ずっとウィスキーをつくり続けていて
そこでできたウィスキーは
びんの底にたてられた
ウィスキー工場をがぶりと飲み込んだあとに
びんのくちまで満たされていく
厚いびんの底から
硝子のくちまで満たされていく

びんの底にあるウィスキー工場は
ウィスキーに満ちたびんのなかでウィスキーをつくる
びんのくちいっぱいまでウィスキーをつくったら
それでおしまい
びんを開けただれかが
なかのウィスキーを減らすと
びんの底のウィスキー工場はまた
びんが満たされるまでウィスキーをつくる
まっ暗な棚の奥でウィスキーをつくる

びんづめのウィスキー工場にとって
びんの中はウィスキーで満たされているものであって
ウィスキーは飲むものであったり
ウィスキーを飲むものがいたり
はじめからびんに満ちていたウィスキーは
だれのウィスキーだったのかと思ったりすること
そういったことはあまり工場にとって
どうだっていいことで
朝にも夜にも
ふれることさえしないことで

びんづめのウィスキー工場は
びんのなかには
少し濃い目のウィスキーが満ちているもので
ウィスキー工場は
少し濃い目のウィスキーをつくることができる
それだけを知っている
びんのなかにウィスキーを満たすために
ウィスキーをつくる
少し濃い目のウィスキーをつくる

だれかがびんを開ける
厚い硝子のびんを開ける
工場はまだ眠っている
びんがかしいで
ウィスキーが流れだす
だれかがびんを閉じる

ウィスキー工場は
ウィスキーを作る
少し濃い目のウィスキーを作る
だれかがその隣で
ウィスキーを飲む
少し濃い目のウィスキーを飲む



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