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詩集
シミュレイション
足の甲に張りつく革靴は
悔しくなるくらいに
あめ色の雨に染まり
あたりにわんわんとこだまする着水音が
濡れた鼓膜を絶え間なく打ちつけている
熱気の中
舞い上がる蒸気はふたたびと
降りしきる雨粒に押し流されていく
生まれたばかりなのか
古ぼけて腐りかけているのか
白なのか
黒なのか
激しいストライプの入る景色の向こう側で
小さな犬が雨音に混じりかけながら
雄々しい唸り声をあげていた
町を睥睨するべき望楼が
巨大な雲に凪がれ
狂った風の蛇が
一夜にして錆の浮いた
塔の根を
刺さった棘を抜き取るように
きめ細かく砕いた
鋳鉄の雨が街に降り注ぎ
けたたましかった小犬の猛りが
物憂げな甘えに変わり
重い雨粒に打たれ
生を願い
とぎれとぎれになった息を吐き
いつしかそれも舞い上がる蒸気に代わり
雨音に消えた

ある男は雨の中で笑い
ある男は雨を溜め続ける
ある女は男を笑い
ある女は涙を雨で隠す
そして神は小さなキーを叩く
傘のない世界は雨に濡れる
そして神は降り止まぬ雨の中
並んだ小さなキーを叩く



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