[携帯モード] [URL送信]

詩集

近いのか遠いのか
どこか地の果てから
笛を吹くような虫の音が
薄い靄となって
白い月を
赤く塗り替えていた

冷気に満ちた
五月の暁の中で
割れた白熱電球のような月光は
紺色の空に張り巡らされた
蛍光灯の光のつくる網にもがいている

月は脈動を繰り返し
ひどく高圧的な光の糸に絡まれ
どこか
諦めきった表情を見せる
ひろびろとした
薄紫色の雲を抜き去って
はるかむかしの光がまた消えた

言葉もないまま
光の遺戒から
赤い月は雨を呼んだ

夜が明ければ
何の理由もない雨が降り
何の理由もなく止む
誰一人
泣いてなどいない
虫たちは泣くことをやめ
月は白く塗りなおされた
灰色の空に月が溶け
無数の涙腺から
無数の雨が降る

今朝方から
誰かが泣いているように思う
日のない空を見上げ
誰かが泣いているように思う



第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!